記念特集 2-2-3 SS 研専のこれからと課題

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Vol.100 No.10 (2017/10) 目次へ

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小林隆志 正員 東京工業大学情報理工学院情報工学系

Takashi KOBAYASHI, Member (School of Computing, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, 152-8550 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.10 p.1049 2017年10月

©電子情報通信学会2017

 現代社会におけるソフトウェアの担う役割は非常に大きくなってきており,ソフトウェアの欠陥に起因する不具合が重大な社会問題となることも少なくない.このため,ソフトウェアに対する正当性検証と妥当性確認の重要性が高まっている.正当性検証とは,正しくソフトウェアを開発したか,すなわち(開発者の)意図したとおりにソフトウェアを開発できたかを確かめることであり,妥当性確認とは,開発したソフトウェアは正しいソフトウェア,すなわち(利用者・顧客の)意図していたソフトウェアであるかどうかを確かめることである.

 SS研専では,これらの理論的基盤となる計算モデルや計算パラダイムなどを中心に,形式手法やモデル駆動開発などのソフトウェア開発論だけでなく,要求分析,ソフトウェア保守・進化手法などの実践的な内容を含む幅広い内容を主要研究分野として扱っている.

 実際の開発においては,利用者・顧客の意図は要求定義書として記述される.要求分析工程を担当する開発者は,要求定義書とシステムが扱う問題領域を分析することにより顧客の真の意図を類推し,その意図を仕様書としてモデル化・文書化する.仕様に矛盾がないことなどを確認する形式手法が数多く提案されており,実開発で採用されたケースも少なくない.また顧客自身が認識していない要求事項を発見するために顧客が理解しやすい中間モデルを用いた要求分析方法など実践的な研究手法も提案されている.

 システム構築は仕様書に基づいて行われるため,システム構築の前に仕様書に対して妥当性確認を行うことは非常に重要である.このため,顧客の理解が容易であり,多様化するシステムを表現するに十分な能力を持つモデル化技法の確立が必要である.そのためには,要求分析手法と形式手法を接続する手法や,形式仕様記述の理解支援に関する研究などが必要になると考える.

 正当性検証については,設計工程での成果物や実装されたシステムを抽象化することで静的に検証するアプローチも多く存在するが,多くの実際の開発ではテストにより正当性を動的に検証する.多様化するシステムの正当性検証をテストだけに頼ることには,現状においても限界があるため,仕様書と成果物の関係について静的に検証する手法によってテストによる動的検証が必要な範囲を限定する手法の確立が今後より重要になると考える.

 また,意図に関わるもう一つの観点として,仕様書を基に設計し実装する作業は開発者に強く依存している点がある.現時点では,なぜ開発者が誤った実装をしてしまうのか,なぜ設計や実装の誤りを認識できないのかという点はまだ明らかになっていない.最近では,開発者の視線情報や脳波情報などから開発活動を分析する研究も少なくない.人間の活動であるがゆえに明確な根拠の特定は困難な領域であるが,不具合混入や低品質な設計の原因の解明とそれに基づく支援は今後期待される領域である.

 このように高品質なソフトウェアの構築を支援するためには,ソフトウェアに対する理論的・実践的な研究だけでなく,開発活動の分析といった開発に関与する人間に対する研究も重要である.近年,SS研専は,関連領域を扱うMSS研,KBSE研,DC研と頻繁に交流し,境界領域の研究について議論を行ってきている.今後も関係する研専と連携し幅広い分野について活発な議論を続けていければと考えている.

(平成29年5月25日受付 平成29年6月13日最終受付)

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()(ばやし) (たか)() (正員)

 平16東工大大学院情報理工学研究科博士課程了.平14同大学助手,以来,ソフトウェア再利用,プログラム理解,リポジトリマイニング,プログラム解析,複合メディアコンテンツの管理・検索などの研究に従事.現在,同大学情報理工学院情報工学系准教授.博士(工学).


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