記念特集 2-2-20 人工知能への回帰

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Vol.100 No.10 (2017/10) 目次へ

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青西 亨 東京工業大学情報理工学院情報工学系知能情報コース

Toru AONISHI, Nonmember (School of Computing, Tokyo Institute of Technology, Yokohama-shi, 226-8502 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.10 p.1083 2017年10月

©電子情報通信学会2017

1.は じ め に

 1980年代後半~1990年代前半に起こった第二次ニューロブームの真っただ中に,私を含む40歳代は大学生になった.ニューロコンピューティングが切り開く新世紀に胸を熱くし,研究者への道を踏み出した人も少なくない.この第二次ニューロブーム下の1989年に,NC研専は設立された.

 しかし,1990年代後半にニューロブームは去り,多くの研究者は「神経実装の縛り」を捨てた機械学習と神経科学へと別れていった.この時期に情報論的学習理論と機械学習(IBISML)研専の前身である情報論的学習理論(IBIS)ワークショップが設立されている.

 20年の歳月が流れ,第三次AI・ニューロブームが訪れた.ビッグデータと強力な計算機と欧米研究者の剛腕により,巨大な多層神経回路のパラメータ調整(深層学習)が可能になり,その性能が飛躍的に向上した.囲碁などへの応用が衆目を集め,AI・ニューロブームに火が付いた.

 本稿では,第三次AI・ニューロブーム下でのNC研専の現状と今後の課題に関して論じていきたい.

2.本研専の現状

 現時点において,NC研専は,第三次AI・ニューロブームの時流に乗っているとは言い難い状況にあり,AIに関連した発表件数が伸び悩んでいる.AI関連発表とは,本研専のホームページにあるキーワード:学習理論,確率的情報処理,記憶,学習,自己組織化,パターン認識,特徴抽出,高次情報処理,遺伝的アルゴリズム,ソフトコンピューティング,複雑ネットワーク,ニューラルネットワークのハードウェア化,ニューラルネットワークの応用,に関する発表が挙げられる.

 例えば,1年間を通して最も発表件数が多い3月開催の研究会での発表状況を見ると,2016年と2017年では,神経科学の発表件数がほぼ同じであったが,AI関連の発表は減少している.AIと神経科学を明確に分類するのは困難であり,これはあくまで私の主観である.しかし,多くの本研究専門委員も同様の印象を持っているのは事実である.この傾向は本研究会特有ではない.類似分野を対象としている日本神経回路学会でも問題となっている.

3.本研専の重要性と今後の課題

 AIの発展には,神経科学との協働が重要である.近年,人工知能学会の年次大会において,神経科学のセッションが行われるようになっている.また,新学術領域研究「人工知能と脳科学の対照と融合」が立ち上がっており,AIと脳科学の協働が実践されている.新学術領域研究「スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成」においても,分野間の垣根を越えた協働が行われている.

 NC研専は,上記と同じAIと脳科学の協働という目標を掲げて,約30年前に設立されており,この領域の老舗である.近年のこのような情勢変化により,再び,NC研専の重要性が増している.

 日本のAI発展のため,NC研専の活動を活発にしなければならない.AI関連の研究者の本研究会への回帰を促進するため,特別セッションなどの企画が必要である.また,我々研究専門委員自身が,本研究会を通して,魅力的な研究を発信していく必要がある.

(平成29年4月27日受付 平成29年5月18日最終受付)

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(あお)西(にし) (とおる)

 平10阪大大学院基礎工学研究科博士課程了.平10~16理化学研究所脳科学総合研究センター研究員.平16~現在,講師,東工大情報理工学院准教授.研究分野は,計算論的神経科学,神経回路の統計力学(コヒーレントイジングマシンなど),データ駆動型科学(カルシウムイメージング,質量分析など).


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