小特集 2.競合を考慮した待ち行列モデルによる無線LAN性能評価

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数理的手法の多様化・深化による通信システムへの新たなアプローチ

小特集 2.

競合を考慮した待ち行列モデルによる無線LAN性能評価

Queueing Models for the Analysis of Wireless LANs with Consideration on Conflicts between Terminals

塩田茂雄

塩田茂雄 正員 千葉大学大学院工学研究科都市環境システムコース

Shigeo SHIODA, Member (Graduate School of Engineering, Chiba University, Chiba-shi, 263-8522 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.4 pp.259-265 2017年4月

©電子情報通信学会2017

abstract

 無線LANを利用する無線端末の内部には送信待機中のフレームの待ち行列が形成され,各待ち行列からは共通のチャネルを介してフレームが送信される.このため,無線LANのスループット性能評価の際には,各端末内部のフレームの待ち行列に加えて,端末間(待ち行列間)の競合を正しく考慮することが必要となる.本稿では,端末内部のフレームの待ち行列間の競合を考慮できる数理モデルを用いて,無線LANの性能を評価する研究例について解説する.

キーワード:無線LAN,待ち行列,IEEE 802.11,DCF,マルコフ連鎖

1.は じ め に

 無線LANのように複数の端末が共通のネットワークリソースを利用する通信方式では,複数の端末が同時にデータを送信したときに発生する競合を回避する仕組みや,競合が生じたときの対処法が定められている.この競合回避の仕組みや競合発生時の対処法をメディアアクセス制御(MAC: Media Access Control)と呼ぶ.

 無線LANにはメディアアクセス制御の異なる様々な規格が存在する.そのうち,本稿では最も広く普及しているIEEE 802.11規格の無線LAN(Wi-Fi)を取り上げる.IEEE 802.11規格では,DCF(Distributed Coordinate Function)と呼ばれる自律分散形のメディアアクセス制御が採用されている.DCFのアルゴリズムは複雑なため,DCFの動作を厳密にモデル化して,無線LANの性能を理論的に評価することは困難であり,現実にはモデルを単純化するための様々な工夫が用いられている.本稿では,無線LANの性能(例えばスループット)を解析的に評価するための手法を解説し,そこで用いられている様々な工夫,特に端末間競合を数理的にモデル化する際の工夫について解説する.

2.IEEE 802.11 DCF

2.1 CSMA/CA方式

 一つのアクセスポイントとそれを利用する1台以上の無線端末から構成されるIEEE 802.11規格の無線LANを考える.IEEE 802.11 DCFでは,無線チャネルの利用権利に関して,アクセスポイントと無線端末の間に違いはないので,以下では無線端末とアクセスポイントを区別せず,単に端末と呼ぶこととする.

 端末間の競合を回避する最も効果的でかつ単純な方法は,各端末が無線チャネルの空きを確認してから,フレームの送信を開始することである.搬送波がないこと(無線チャネルの空き)を確認する作業を搬送波検知(Carrier Sensing)と呼び,搬送波検知の機能を取り入れたメディアアクセス制御をCSMA(Carrier Sense Multiple Access)方式と呼ぶ.

 搬送波検知を行うことにより,端末間の競合は大幅に減少するが,完全になくなるわけではない.搬送波はフレーム送信の開始と同時に全端末に届くのではなく,信号の伝搬に要する時間だけ遅れて届くので,その遅れの時間の間に(搬送波が直後に届くことに気付かずに)他の端末が送信を開始すると,フレーム衝突が発生し,フレームの送信に失敗する.このため,IEEE 802.11では,フレーム衝突を検出するための次の仕組みを採用している.フレームを正しく受信した端末はDIFS(注1)よりも短い時間(SIFS: Short Inter-Frame Space)経過後に送信元の端末に確認応答用のACKフレームを送信する.フレーム送信元の端末は,ACKフレームの到達の有無によってフレーム衝突の有無を判断し,ACKフレームが届かない場合はランダムな時間待機し,待機後にフレームを再送する.この仕組みをCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)と呼ぶ.


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