小特集 3. 極値理論と情報システム評価への応用

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数理的手法の多様化・深化による通信システムへの新たなアプローチ

小特集 3.

極値理論と情報システム評価への応用

Extreme Value Theory and Its Applications to Performance Evaluation of Information Systems

笠原正治

笠原正治 正員 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科

Shoji KASAHARA, Member (Graduate School of Information Science, Nara Institute of Science and Technology, Ikoma-shi, 630-0192 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.4 pp.266-272 2017年4月

©電子情報通信学会2017

abstract

 極値理論は標本の極値(最大値・最小値)が母集団の大きさとともに変化する漸近的な挙動を取り扱う確率統計理論であり,土木工学では河川の洪水発生予測や大地震の最大震度予測に応用され,構造物の設計に役立ててきた.極値理論は情報通信にも古くから応用されてきたが,近年の情報システムの大規模化や複雑化に伴い,極値理論の新たな適用先が開かれつつある.本稿では,まず極値理論の導入として,独立同一分布に従う1変量確率変数列に対する基本事項を紹介する.次に情報システム評価への応用例として,クラウドコンピューティングの落伍者の問題,並びにビットコインにおけるブロック生成時間解析について紹介する.

キーワード:極値理論,極値分布,吸引領域,大規模分散並列処理,ブロックチェーン

1.は じ め に

 極値理論は標本の極値(最大値または最小値)の確率的挙動を取り扱う理論である.代表的な応用の一つに,河川や海岸に対して災害に耐え得る堤防の高さを決定する問題が挙げられる(1).具体的には,河川のある地点の年間最大水位や最大流量の記録を基に,極値理論を用いて例えば100年に一度の水害にも耐え得る堤防の高さを決定する.年間の最大水位や最大流量といったデータは日々の観測で得られるものであるが,1年間での最大水位のようなデータは数が限られており(注1),そのため極値理論を予測に使う統計的アプローチが多く研究されてきた.

 極値理論の起源は18世紀まで遡り,20世紀初頭にvon Bortkiewiczが天文観測の外れ値解析で極値の問題を取り扱って以降,von Mises,Fréchet,Fisher,Tippet等によって1変量の極値理論が整備され,1940年代にGnedenkoによって厳密な理論体系が完成された.1958年にガンベル(Gumbel)が解説書(3)を出版したことにより,極値理論は広く知られるようになった.ガンベルは放射線放出量や人間の寿命,洪水時の流量や水位,洪水発生予測に対して極値分布を使った分析を行ったが,極値理論はその後地震のマグニチュードや,雨量・風速といった気象データ,金属腐食,更には金融や保険の分野にまで応用されるようになっている(4)

 情報通信への応用については,古いものでは文献(5)や(6)において,信号処理,特に受信信号の誤り検出に極値理論が応用されている.近年ではトラヒックデータの分析(7)や通信ネットワークの大規模障害分析(8)に極値理論が応用されている.

 このように極値理論は統計的予測を中心に応用がなされてきたが,システムの性能を分析したり設計する用途には余り用いられてこなかった.数少ない応用例の一つに機械修理問題がある.文献(9)では,複数の構成要素から成る機械の修理問題に対し,全部の構成要素の修理が完了した時点で機械が引き取られる状況を単一サーバ待ち行列でモデル化し,サービス時間を極値分布で近似して解析するアプローチを提案している.


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