講座 Sパラメータ特論[Ⅰ]――反射係数の二つの定義――

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講座

Sパラメータ特論[Ⅰ]

――反射係数の二つの定義――

Advanced Concepts in S-parameters[Ⅰ]:Two Incompatible Definitions of Reflection Coefficients

天川修平

天川修平 正員 広島大学大学院先端物質科学研究科半導体集積科学専攻

Shuhei AMAKAWA, Member (Graduate School of Advanced Sciences of Matter, Hiroshima University, Hiroshima-shi, 739-8530 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.5 pp.381-386 2017年5月

©電子情報通信学会2017

目  次

[Ⅰ] 反射係数の二つの定義(5月号)

[Ⅱ] Sパラメータの諸性質(6月号)

[Ⅲ・完] 基準インピーダンスの設定(7月号)

1.は じ め に

 工学部初年級で学ぶ線形回路網の表現として,math行列(インピーダンス行列)やmath行列(アドミタンス行列)がある.インピーダンスとアドミタンスは交流理論で出てくる量だから,math行列もmath行列も周波数領域で回路網を表現した量ということになる.インピーダンスは電流と電圧を測れれば算出できるし,インピーダンスアナライザという測定器もある.

 周波数領域での線形回路網の表現にはほかにも幾つかあり,マイクロ波工学や高周波回路工学ではmath行列(散乱行列)なる表現を利用する.math行列の行列要素をSパラメータ(散乱パラメータ)と呼ぶ.Sパラメータはベクトルネットワークアナライザ(VNA)で測ることができる.ある回路網のmath行列があったとき,それをmath行列に変換することもできるし,その逆も可能である.しかしながら,マイクロ波帯ではインピーダンスを直接測定するのが困難なため,周波数領域での測定と言えば,専らSパラメータ測定となる.

 math行列とmath行列の相互変換に必要な数学は複素数の四則演算(と行列演算)だけであり,特に難しいところはない.にもかかわらず,math行列はmath行列やmath行列と比べて格段に理解が難しい.Sパラメータとは,簡単に言えば伝送線路を伝搬する電圧の波に対する反射係数や透過係数である.したがって,Sパラメータはインピーダンスやアドミタンスと違い,比を表す無次元量である.例えばインピーダンスを無次元量に変換するには,インピーダンスの次元を持った量で割ればいい.ここで出てくる「インピーダンスの次元を持った量」を基準インピーダンス(reference impedance)と呼ぶ.Sパラメータが比を表す量であることが,高い周波数での測定のしやすさ,そして測定器の作りやすさに直接関係している.しかし,同時にこれが任意性が入り込む原因ともなっており,Sパラメータの定義は複数考えることができる.具体的には,

 ① 基準インピーダンスの値をどう選ぶか.

 ② (前述どおり)電圧同士の比で定義するか,あるいは電流同士の比で定義するか.

 ③ 電圧・電流を重視するか,あるいは電力を重視するか(後述).

などが定義の分かれ目となる.定義がいろいろあり得るなら,どの定義を用いているか明示しなければまずいはずであるが,困ったことに明示されることはほとんどない.それでも実用上さほど困らない理由は,習慣的に,基準インピーダンスは実数値50mathとし,電圧同士の比で定義することになっているからである.基準インピーダンスが実数値だと,結果的に③の区別は消滅する.とはいえ,時として複素数値の基準インピーダンスを扱う必要性が出てくることもある.そうなると,③の区別は(現段階では意味が分からないと思うが)決定的に重要である.また,「電力重視」で行くと,知らず知らずのうちに②で電流同士の比を採用しているかもしれない.


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