巻頭言 インベンションとイノベーション

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Vol.100 No.6 (2017/6) 目次へ

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 インベンションは技術のハードル,イノベーションは顧客や社会のハードルと言われる.このハードルの高さが大きく変わってきているように感じている.

 従来は,インベンションの技術のハードルが高く,イノベーションの顧客のハードルが低かった.技術のハードルを越えることができれば,事業に結び付ける困難さは相対的に小さかった.CPUの高速化・省電力化技術,無線通信の高速化技術,LSIの高密度実装技術など,技術開発に成功すればそのまま事業として展開されることが多かった.

 これに対して,昨今は,イノベーションのハードルが相対的に高くなっている.インベンションの技術のハードルを越えることができても,イノベーションのハードルを越えられない事例が増えてきている.特に我が国では「技術で勝ってビジネスで負ける」と言われて久しいが,これこそイノベーションのハードルが高くなったことを示唆していよう.

 シュンペーターは著書「経済発展の理論」において,イノベーションは「新結合」であるとしている.イノベーションは技術革新のみに限定されるものではない.シュンペーターは,イノベーションの類型として,「新しい財貨(製品やサービス)」「新しい生産方法」「新しい販路」「原材料・半製品の新しい供給源」「新しい組織形態」を挙げている.

 また,産業競争力を米国が今後も維持し続けるための施策を米国政府に提言したパルミサーノ・レポートによれば,イノベーションは「社会的,経済的な価値創造を実現する“インベンション(発明)とインサイト(洞察)”の掛算」と定義される.発想,発明,事業化という直線的な流れで事業を進める時代ではなくなってきていることを指摘し,多種多様な学際領域をまたいだ融合が重要であることを指摘している.イノベーションは,社会的,経済的な価値創造であり,洞察が重要であると明快に言い切っている.

 イノベーションにつなげるためには,社会や顧客が必要とする要求や要件を深い洞察でもって明確にすることが重要となる.いわゆるストーリーの明確化である.研究開発と並行して,ストーリーの構築を進めていかなければいけない.ストーリーを明確にすることなく研究開発を進めると,何のための技術なのか,お客さんが必要としているのか,などと言われるとともに,イノベーションのハードルを越えることが難しくなってしまう.

 技術だけではイノベーションを起こすことが相対的に難しくなってしまった.せっかく開発した素晴らしい技術が埋もれてしまってはもったいない.技術の強みを社会の中でどのように展開していくかのストーリーがあってこそ,技術が生きる.

 インベンションとイノベーションのハードルの相対的高さが変化しているのだとしたら,組織内でのリソース配分の在り方をも考え直さなければいけない.これからは,多めのリソースを意識してイノベーション側に配分することが必要となる.

 本会は,今までインベンション側を中心に活動してきた.イノベーション側の取り込みも,これから考えていかなければいけない.経営学の分野では,Strategic Management JournalやOrganization Scienceなどといった学術的なジャーナルもある一方で,社会との結び付きがより深いHarvard Business Reviewなどのジャーナルもある.これをヒントに本会のジャーナルの在り方などにも思いを巡らせていきたい.


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