特集 1-1 豊かな将来の暮らしの実現に向けて

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Vol.100 No.8 (2017/8) 目次へ

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タイトル

大橋正良 正員:フェロー 福岡大学工学部電子情報工学科

Masayoshi OHASHI, Fellow (Faculty of Engineering, Fukuoka University, Fukuoka-shi, 814-0180 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.8 pp.744-748 2017年8月

©電子情報通信学会2017

abstract

 私たちの衣食住をはじめとする暮らしの品質はこの数十年で目覚ましく向上した.ICTは,この改善に背景から大きく貢献してきた.今後もICTが果たす役割は引き続き大きいものの,少子高齢化,環境/エネルギー問題など幾つもの避け得ない要因が私たちの日常生活にも影響を与えてゆくだろう.本稿ではこれらの予測を踏まえてICTが今後果たすべき役割と課題について俯瞰したい.

キーワード:将来社会,ビッグデータ,センサネットワーク,ライフログ

1.は じ め に

 この数十年にわたる情報通信技術(ICT)の発展は我が国の産業発展に必要不可欠な存在であった.情報通信白書(1)によれば,2014年度の情報通信産業の市場規模は84.1兆円で全産業の8.7%を占めており,各種産業の中で最大規模になるに至った.これは周辺産業も含め,ICTが私たちの社会を発展させてゆく原動力の役割を担ってきたことは間違いないであろう.本稿では少し長期的な視点を踏まえ将来の我々の暮らしがどのように発展してゆくかを俯瞰したい.

2.私たちに不可避な社会の要因

 日本のICTの現在と将来について語られるときには,いろいろな課題が存在しつつも,ICTが人々の暮らしや産業に直接・間接に寄与して発展するシナリオが多い.近い先のICTの在り方を議論するときにはそれでいいのだが,もう少し先を予見しようとすると不可避な要因が幾つも現れてくる.まず主な要因の列挙から始める.

 (1) 少子高齢化と人口減少

 少子高齢化とそれに伴う人口減少は発生が確実で,これほどまでの急激な事象は,有史以来初めて日本が経験するとされている(2).20世紀後半に働き手として日本の発展を支えてきたベビーブーマ世代を中心とする人たちが今高齢者となり,年金並びに健康保険,介護費用の支出が重荷となり,日本は負の資産を多く抱え込むに至った.日本はこの点出口がない.かつ若い世代の人口が少なくなる.

 (2) 途上国の発展と日本の地位低下

 GDPの視点で見ると日本の地位は確実に低下する(2).特にアジア,アフリカ諸国が躍進し,結果として日本自身の富の総量が世界的に見て相対的に縮小することになる.またこれに伴い国家の安全確保も課題になってこよう.ただし,今の途上国の急激な躍進は,結局若い労働世代の人口の急増加に頼ることが大きく,それは日本と同じくその先いずれ同じ傾向が出てくることになる.

 (3) 地球温暖化並びに環境/エネルギー問題

 長期間の視点で見ると地球温暖化対策が最も重要になる.今災害対応等で日本では若干下火になっている感もあるが,脱炭素化社会への要請は中長期的にはより顕在化してゆくであろう.一方で社会を維持する観点で,環境負荷と折り合いを付けつつ必要十分なエネルギーを確保することはこの一世紀の重要な課題となろう.加えて見通しを述べることはできぬものの,福島原発廃炉問題は処理が長期に及び,またその影響も長らく続くことだけは間違いないだろう.

 (4) 災害に対する準備

 もし次の100年を見据えるとなると,よほどの幸運に恵まれない限り,震災のような大規模災害はほぼ間違いなく幾度と発生する.これに対する備えが必要となる.

 ここから言えることは,少なくとも日本はGNP世界第2位を誇った20世紀のスタイルで生きてはいけないことだ.我々の暮らしも,20世紀後半にあったような高度経済成長シナリオに基づく発展への期待を持って,充実して生活してゆけるかというと悲観的だ.

 かつて働き盛りの世代が人口の主を占め,高齢者の年金や健康・介護費用が相対的に低く済んだことが当時の社会全体の富を拡充した.しかし今や当時の働き盛りの人々に行うべき年金・医療保障のケアが必須となり,少子化とあいまって今後の経済負担を重くしている.この2,30年間,国は出生率を増やし,若年人口の増加によって問題解決を図ろうとしてきたが,実際にはほとんど効果がなかった.

 そうすると我々は上記の状況下で,今後富の総量が相対的に少なくなることを前提としつつ,人々の幸せを保つことを考えねばならない.

 有効な対策の一つはICT活用による生産性向上である.IoT,人工知能技術の発展によって生産性は増加すると言われている.一方では旧来の定常業務を主として今後多くの職種がコンピュータやロボットにとって代わられるとも言われている.文献(3)によると例えば電話勧誘やデータ入力者などが近々消え去る職種候補として挙げられている.余剰になった人的資源を成長分野に移行させるのが有効だろう.抵抗も多いだろうが,それは18世紀の産業革命時に多くの農民を生産性の上がる重工業に転身させていったことと本質は変わらないだろう.しかしこの取組みを行ったとしても,恐らく限界はある.

 ただこれをもって人々の生活がそのまま貧しくなるのだろうか? 情報通信白書の中でも指摘されているが(1),OECDはこれとは別にBetter Life Index(4)という指標を定義している.これは仕事・収入のみならず,住宅,コミュニティ,教育,環境,市民参加,健康,生活の満足,安全,ワークライフバランスと言った尺度で生活がどこまで豊かに満たされているかを示す指標になっている.固定的な順位は示さずユーザがどの指標にウェイトを置くかで傾向を評価できるようになっていて興味深い.全部のウェイトを均等とすると日本は2016年現在OECD諸国の中で23位になっている.人々の暮らしの充足・幸福の確保を一義に考えれば,このような指標向上をより積極的に推進する施策が重要であり,ICTはそれを実現する上で大きな役割を果たそう.

3.将来のICTが提供するフィーチャ

 ICTの発展速度は我々の実社会が変化する速度に比べ,はるかに急激で,破壊的でさえある.したがって社会がこうあるべきなのでICTにはこのような発展が望まれるという議論は難しく,むしろICTの発展が次々と生み出す各種のフィーチャが,いかに人々の将来生活に大きなインパクトを与えるか,そして前述の不可避な状況と合わせると何が見えるかと言った議論の方が適切と考える.

 このため将来提供が予想されるICTのフィーチャを列挙する.これらは本会誌の他の記事で詳細に記述されると思われるので,キーワードのみ簡単に書き並べる.

 ・ 爆発的な量の情報生成と流通:

 ICTの本質の一つは情報コピーとその拡散能力であろう.多くのユーザによるソーシャルメディアへの発信やセンサデータなどがネットワークに流れ込み膨大な情報となって流通する.

 ・ ストレージの一層の進化・巨大化:

 クラウドの規模が一層拡大し,処理量が膨大になる.ビッグデータが分析・活用され,データオリエンティッドな社会が到来する(5)

 ・ 知的処理基盤の充実:

 機械学習・人工知能処理の進歩により,検索をはじめレコメンデーション,コンテキストアウェアネス処理基盤が一段と整備される(6)

 ・ 通信の発展:

 光,ワイヤレス共に広帯域化・リアルタイム化が進む.アクセスは遍在し,短距離では超高速なワイヤレスアクセスも実現する.ビット当りの通信コストは劇的に低下する.一方で伝送速度を低速に抑えつつ超低消費電力を実現する通信もセンサネットワークを主として広く普及する.

 ・ 情報処理コストの低下:

 これまで企業が自前の設備を調達して処理していた大量の情報処理が,通信とクラウドの活用で,高速かつ低コストで処理可能となる.

 ・ 仮想空間と実空間のシームレス化:

 VR, ARが高度に発展し,ビジネスでは作業現場での作業支援,個人ではエンターテイメントに広く利用されてゆくだろう.

 情報通信全般への投資は引き続き活発であろう.ICTに支払うコストは恐らく下がらないだろうが,それ以上にICTから受ける恩恵の方がはるかに大きくなろう.またこれまでもそうであったように,ICTの変革は,ある種後戻りできない不可逆な変革として続く(7).爆発的に増大するソーシャルメディアでのテキスト・動画像・3Dコンテンツやセンサから生成される情報などに瞬時にアクセス・共有し,内容を認識し,自在に加工して様々な新たな価値を生成できるだろう.実空間と仮想空間のギャップは狭まり,ICTを活用した実空間のサービスがデフォルトとなろう.ネットワークを介して瞬時につながるソーシャル能力は新しい次元でのコラボレーションやコミュニティの生成に寄与するだろう.加えてICTが社会で広く活用されることは,目に見えない非貨幣価値が人々に広く蓄積されることでもあり,我々の実質的な財を増やしている(1)

 一般論を続けても何なので,次章では,具体的な衣食住を対象として将来の私たちの暮らしを考えてみたい.

4.衣食住をはじめとした私たちの暮らしの変革

 ICTを活用した将来の人々の暮らしの様子としては,次のような姿が見えてくる.

 (1) ライフスタイルの多様化

 都市への人口移動,少子化,高齢一人暮らしの増加,非婚者の増加などライフスタイルの多様化は一層進む.団らん的なコミュニケーションが少なくなる代わりに,ソーシャルメディアを用いた情報交換の機会が一層増加する.人々は相談も含め,必要な情報をネットから得たり,コミュニティを自在に形成して対処する.ボランティア活動も促進されよう.一方でかつて地域の相談役や宗教が果たしてきた役割は低下することになる.

 (2) コンパクトなスマートシティの出現

 都市への人口集中と田舎,特に限界集落に近いところでは村落の崩壊が起こる.大都市や一部の主要地方都市には若年層が多く集まる一方,不活性化から抜け出せない都市では駅前のシャッター通り化がますます進むだろう.人口減少に伴い,都市エリアを従前のままとすると人口当り投下せねばならない都市インフラコストがかさみ続ける

 この状況の改善のためには,ICTでサポートされたコンパクトシティ化(=投資効率の良い都市の再構築)が重要な課題になる.核となるエリアに公共設備と住居を集中させるとともに,そこにICTを重点的に配備する.例えば主要エリアに配備されたセンサ情報に基づく適切な交通流の制御,駐車場への効率的な誘導など環境保全に向けた取組みが進もう.既存の道路・橋りょう・構造物などの都市インフラは安易に建て替えず,可能な限りセンサ等を活用してメンテナンスを行い長寿命化が図られよう.

 住宅市場では,情報流通促進による土地・家屋の流動化が促進されよう.最近では民泊が話題を呼んでいるが,土地・家屋のレンタルやシェアリングでさえもICTによって人々が気軽に利用してゆく可能性もあろう.

 人々の多くは合理性から都市環境に住む傾向になると考えられるが,一方で応分のコストを払っても,郊外や田舎に住みたい人たちもいよう.この人々に対してもテレプレゼンス,AR/VRによる臨場感通信などの技術でリモートワークを行い距離問題が軽減/解消されることが期待される.

 (3) 住環境の進化

 住居については,多様化した生活を支えるため,ICTを活用した設備・サービスが整えられてゆくだろう.

 第1に,掃除はもとより,洗濯や調理に至るまで家電のインテリジェント化が進む.スマートフォンを介した機器のモニタリングや制御が普通となり,家事からの開放が一層進み人々の余剰時間を生むだろう.太陽光発電& HEMS(Home Energy Management System)によってエネルギー節約が行われよう.住宅の温度・湿度もICTによって最適制御され,エネルギー消費を抑えつつ快適な暮らしが送れるようになるだろう(8)

 多くの住居,アパートで安全のため防犯カメラが普及するだろう.コンビニや一部店舗,マンションなどに備わっていた防犯カメラは低価格化,長時間録画,ネットワーク化が進み,来訪者,不審者の自動検知が可能となるだろう.また子供・高齢者には移動管理が当たり前となり,不慮の事故や徘徊が防止できるであろう.玄関にはスマートロックがデフォルトとなる.結果として空き巣などの犯罪は減少しよう.

 今後増加する高齢者のために,住宅のバリアフリー化がデフォルト若しくは装着可能なオプションになろう.プライバシーに配慮しつつ離れた場所から見守りを行えるシステムや,要介護者ための介護ロボットも普及が進むであろう.

 最後に家屋の耐災害性の向上も図られよう.センシング技術の進歩により,家屋の耐震評価もずっと正確に行われ,必要な補強がタイムリーに実施できよう.

 これらサービスの提供には各住居にその家の情報を集積・分析するインテリジェントなハブが必須となってこよう.これら一連の設備/サービスは,幅広い普及とともに低コストで提供されていくことが期待される.

 (4) 食の進化

 食については食物を生産する観点と,食物を流通させ,食事を作って食べる消費の観点の二つから述べる.

 まず生産の観点から見ると,安定した食料供給のために農林水産業の分野でICTが果たすべき役割は大きい.センサ・ロギングを活用した最適な肥料・農薬投与,養殖での飼料投与管理,枝打ちなどがICT化されてゆくだろう.収穫地域全体にわたって幾年ものセンサ情報を蓄積・分析することによって,エネルギー効率に優れた適正規模でかつ継続性ある収穫が可能となってこよう.{生産量/人による手間}の値の増加の結果として生産コストも低下することが期待される.林業における高所作業などはロボットに代替されてゆくと推測する.

 消費の面から見ると,ICTによって食材の由来情報が提供され,地産地消も促進されよう.消費者には旬の食材が適切なタイミングと価格で提供される.調理器具の進化と多彩なレシピ情報の流通により,人々はより多様で今まで知らなかった多くの料理を楽しめるようになるだろう.更にトレーサビリティ/食物センシング技術の進化により,食材の安全確保を図り,腐敗等の検知や毒きのこ/寄生虫などこれまで害を与えていた要因もある程度排除できることが期待される.

 ただ,食は進化を続けているわけではない.今私たちの食事は昭和50年代のそれに比べると健康上は良くないようだ(9).コンビニ食の頻度の増加,過度な脂質の摂取など,望ましくない傾向がある.ユーザの健康・長寿のためには,何を食べてきたかを認識した上で,望ましい食品を摂取すべきである.この課題を解決し得るICTの例としてFoodLogサービス(10)がある.これはユーザが毎日の食事の写真をアップロードし,データの入力を続けることにより,自分の食事履歴を振り返って評価できる.将来は,このようなサービスが発展普及し,メニューの推薦や食生活指導の実施も期待される.医療との両輪で健康寿命延伸を図ろうとする世の中が訪れよう.

 (5) 衣(アパレル)の進化

 アパレルは食・住に比べ無理して進歩しなければならないモチベーションは低い.しかしこの数十年の間に機能面からは大きな改善が見られた.例えば服も靴も軽く,素材も雨天用に防水性が強化され,冬物は保温性に優れた新しい素材が開発され,低廉な価格で提供されてきた.鞄やリュックも,以前は革素材が幅広く用いられてきたが,今では黒色のバリスティックナイロンがその耐久性からよく用いられている.将来もこの機能向上は続くだろう.衣料自身にセンサやヒータを付ける試みもあるほか,プリンテッドエレクトロニクス技術を適用して電子繊維を作り,そこにRFID等の電子回路を実現する検討も行われており,今後思いも掛けぬ機能を備えた衣料が生まれてくることも期待される.

 加えてクールビズ,ウォームビズなど環境問題への貢献につながるカジュアル化も進むだろう.

 将来は個人に対するベストフィットのサービスが生まれるだろう.自分の体形を3Dスキャンして採寸しておき,必要に応じて提供すれば,簡単にオーダメイドで仕立を行ってくれるサービスも出現しそうだ.更にこういったデータを仮想空間で展開できれば,各種サービスが可能となろう.店で服を買えばそれをベースのコーディネートをバーチャルに展開するとか,デザイナーによるプレミアムコーディネートなどは人気を呼ぶかもしれない.

 より顕著になるのはユーザ主導型の流行の形成かもしれない.価値観も多様化してきているので,雑誌/マスコミ側から一方的に仕掛ける流行は成立しにくくなってゆくだろう.むしろICTによってみんなが何を着たいか,着ているかという情報共有の結果として流行が形成される可能性がある.

 シェアリングにも触れる.近年若者を中心にアパレルやカバン等をシェアリングするサービスが流行している(例えば文献(11)).衣服をストックするのではなく,定額でネットで気に入った衣服を注文して飽きたら返す,何度でも借用・返却できるサービスだ.今は車のシェアリングが有名だが,将来は日用品でも購買・所蔵から共有へとパラダイムが移行する可能性があろう.

 最後にまとうという意味でウェアラブルデバイスがユーザとICTをスマートフォン以上に密につなげるデバイスとして発展・普及しよう.加速度や脈拍等の計測で人の行動や状況をセンシングしたり,スマートフォンの張り出しの役割を担って情報の入出力を行える.健康・長寿に資する可能性が大である.

5.ICTが与えるインパクト

 では一言でICTは私たちの将来の暮らしの何を変えようとするのだろうか? 筆者は,それは膨大な情報処理が行われた結果としての知性の提供と考える.先にICTの本質の一つは情報のコピーと拡散と述べたが,今後数十年の間に,人々に到来する情報の総量は確実に膨張する.それらは適宜保存されるか,あるいはストリーミング的に流れ続けるであろうが,恐らく自分自身に関する情報とその関連情報でさえ,たちまち個人が自身で管理できる限界を超えよう.

 これに対処できるのはICTしかない.自分の生活履歴を正確に保存・把握して,必要な時点で情報を引き出してくれること,何だったっけ?という本人の情報の欠落を埋めること,ある置かれた状況の下ですべきこと,すべきでないことを示唆すること,本人不在でも不審者が家をのぞいているようだ,等の不自然な状況を把握してアラートを出すこと,どちらの服を選ぼうかと本人が迷った際に,広く共有されている事例を参照して推薦すること,こういったこと全てが,人の置かれた状況,これまでの膨大な履歴,類似する事例などをベースに分析され判断されてゆくであろう.ライフログはここに寄与する(12).我々はかつてこのような状況への対処をプロファイルアグリゲータとして提案してきた(13).また最近では情報銀行に関する議論が盛んであり,進ちょくが大いに期待される(14)

 このような状況に至ることを,シンギュラリティの到来(15)と呼ぶ人もいるかもしれない.しかしここで述べている能力は,決して人に危害を及ぼすものではなく,人が現代とは桁違いに膨大な情報にさらされ続ける中では必要不可欠な技術になる.本来の意味と同義ではないかもしれないが,これを知性という言葉で呼んでおきたい.

 ではこれが具体的に何なのかというと,それはネットを介して提供される情報提供サービスかもしれないし,スマートホン上に常駐するアバターかもしれない.ひょっとしたら実空間に出現する支援ロボットなのかもしれない.市場側からはユーザリーチのために進んで(無料で)提供されるだろうし,一方でユーザの情報を厳密に管理・分析した上でサジェスト・レコメンド・リマインドをするような有料のサービスも生まれてくるだろう.

6.ICT社会の将来課題

 ここまで述べた上で将来課題は何かというと,人々が監視される社会になってゆくのだろうかとの懸念だろう.今でさえ,自分の各種のプロファイルは各所に置かれ第三者にも閲覧されている.これが将来非常に密に自分の履歴がロギングされ,それが自分のセットした範囲でしか閲覧されていないとしても,それはプライバシーに踏み込んだ監視ではないのか?という意見があるだろう.一つ興味ある事実は,例えばFacebookなどで人は自分の履歴を(差し支えない範囲で)進んで披露していることだ.プレゼンスサービスもその範ちゅうだろう.“虚栄(プレゼンス)はプライバシーを凌駕するか(7)?”は興味ある問い掛けだ.

 それより懸念されることは,我々の知識の表層化だ.もしこのようなICT社会において何も意識しないと,到来する情報は自分の興味,趣味に適ったものだけが心地良く流れ過ぎてゆくだけで,時間が過ぎてゆくことになるだろう.教育で訓練を受けるか,自分で相当意識しない限り,物事を体系だって考えることができなくなるのを懸念する.人のアイデンティとは畢竟どの情報ストリームを好みで流すかの選択でしかなくなる.人に個性があると言っても,情報共有・分析が進むと,ある状況に置かれた下では人はみんな類似した行動を取りがちなことも判明してくるような気がする.人の自律が今よりずっと求められる世の中になっているかもしれない.

7.お わ り に

 今しばらく日本を取り巻く状況は楽観的ではないにもかかわらず,我々は幸運にもICTという継続発展できる強力な武器を持っている.日本は21世紀の後半までは人口も増えないだろうし,GDPの面から見た生産量も世界的に見れば順位を下げるだろう,しかし前述したとおり,ICT自身が人々の生活を支えるファンダメンタルズとして無形の富を創造するという視点が非常に重要である.筆者はICTの未来に大きな期待を寄せたい.

文     献

(1) 総務省,平成28年情報通信白書,
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html

(2) 英「エコノミスト」編集部,2050年の世界,文春文庫,文藝春秋,2015.

(3) C.B. Frey and M.A. Osborne, “The future of employment: how susceptible are jobs to computerisation?,” Technol. Forecast. Soc. Change, vol.114, no.C, pp.254-280, 2017.

(4) OECD, “Better life index,”
http://stats.oecd.org/

(5) 上田修功,“ビックデータ.”電子情報通信学会100年史,トピックス,電子情報通信学会,2017.

(6) 栗原 聡,“人工知能処理,”電子情報通信学会100年史,情報システム,電子情報通信学会,2017.

(7) ケヴィン・ケリー,インターネットの次に来るもの―未来を決める12の法則,NHK出版,2016.

(8) 山中直明,“エネルギー管理システム,”電子情報通信学会100年史,トピックス,電子情報通信学会,2017.

(9) 都筑 毅,昭和50年の食事で,その腹は引っ込む,講談社+math新書,講談社,2015.

(10) 相澤清晴,“自己管理のためのマルチメディア食事記録ツール―FoodLogとそのデータの評価と解析―,”信学誌,vol.99, no.2, pp.124-129, Feb. 2016.

(11) http://www.air-closet.com/

(12) ゴードン・ベル,ジム・グメル,ライフログのすすめ,ハヤカワ新書,早川書房,2010.

(13) D. Morikawa, M. Honjo, N. Kotsuka, A. Yamaguchi, and M. Ohashi, “Profile aggregation and dissemination; a framework for personalized service provisioning,” Ubicomp 2004 workshop, Nottingham, England, Sept. 2004.

(14) 情報銀行,
http://www.information-bank.net

(15) レイ・カーツワイル,ポスト・ヒューマンの誕生,NHK出版,2007.

(平成29年2月27日受付 平成29年3月21日最終受付)

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(おお)(はし) (まさ)(よし) (正員:フェロー)

 昭58京大大学院了.国際電信電話株式会社(現KDDI)入社後KDDI研究所,ATRメディア研所長,同適応研所長を経て,平25-04から現職.移動体衛星通信,第3世代移動通信,ユビキタスNW研究開発に従事.工博.情報処理学会,IEEE各会員.


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