解説 超伝導技術を用いた量子コンピュータの開発動向と展望

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解説

超伝導技術を用いた量子コンピュータの開発動向と展望

Development Progress and Future Perspective in Superconducting Quantum Computer

田渕 豊 杉山太香典 中村泰信

田渕 豊 東京大学先端科学技術研究センター

杉山太香典 東京大学先端科学技術研究センター

中村泰信 東京大学先端科学技術研究センター

Yutaka TABUCHI, Takanori SUGIYAMA, and Yasunobu NAKAMURA, Nonmembers (Research Center for Advanced Science and Technology, The University of Tokyo, Tokyo, 153-8904 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.4 pp.400-405 2018年4月

©電子情報通信学会2018

abstract

 量子コンピュータは量子力学の性質を利用することで素因数分解や量子系のシミュレーションなどの既存のコンピュータが苦手とする問題を高速に解くことができる計算機である.量子コンピュータの実現に向けて様々な物理系を対象とした研究開発が進められており,中でも超伝導量子回路は制御性や集積化の観点で注目されている.国内外で研究開発が進められており,昨今では特に北米で著しい進展が見られる.本稿では,量子コンピュータの基本事項・超伝導量子回路に基づく量子コンピュータのハードウェア・世界的な開発動向と展望について解説する.

キーワード:量子コンピュータ,超伝導量子回路

1.量子コンピュータの実現に向けて

 我々が日常生活で目にする現象の多くは古典力学で説明されるが,電子・原子・分子などのミクロな物理系の振舞いは量子力学で記述される.そのような物理系は量子系と呼ばれ,例えば,量子力学的重ね合わせと呼ばれる状態をとり得る,状態を記述するパラメータの数が系の構成要素の数に対して指数関数的に増加する,などの古典系にはない性質を備えている.量子コンピュータとは,量子系が持つ古典系にはない性質を利用して計算を行う装置の一種である.量子コンピュータを用いると素因数分解や量子系のシミュレーションなど既存のコンピュータにとって解くことが難しいと考えられている問題を高速に(問題によっては超多項式関数的に速く)解けることが理論的に示されている(1)(3).1985年のドイチュによる量子チューリングマシンの定式化(4)以降,既存のアルゴリズムを超える性能を持つ様々な量子アルゴリズムが提案されている(5),(6)

 量子コンピュータの計算モデルには回路型,測定型,断熱型など様々なモデルが提案されている.本稿では回路型と呼ばれる計算モデルに立脚する量子コンピュータについて説明する.既存のコンピュータが0または1の値をとるビットを情報の単位とするのに対し,量子コンピュータでは0と1の量子力学的な重ね合わせもとることができる量子ビットを情報の単位とする.量子アルゴリズムでは多数の量子ビットに量子演算と呼ばれる操作を適切な順番で実行していくことによって計算が遂行される.量子演算は初期状態の準備・ゲート演算・測定の三つに分類される.基本となるゲート演算には1量子ビットに作用するゲート演算や2量子ビットにまたがるゲート演算などがあり,量子コンピュータの計算能力は利用できるゲート演算の種類によって決まる.量子演算の最後に測定を行い,得られた測定値をデータ処理することで計算結果が得られる.


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