教育優秀賞贈呈

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Vol.101 No.7 (2018/7) 目次へ

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平成29年度 第2回 教育優秀賞贈呈

 本会選奨規程第29条(電子工学及び情報通信並びに関連分野における教育実践(学会,教育機関,企業等での教育の実践)において顕著な成果を挙げ,当該分野の教育の発展に寄与した個人)に基づき,下記の3名を選び贈呈した.

電子情報通信分野における実践技術者育成への貢献

受賞者 蟹江知彦

 蟹江知彦君は,1995年北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科を修了され,その後,川内職業能力開発短期大学校講師,近畿職業能力開発大学校助教授,長野県南信工科短期大学校教授を経て,現在技術士として活躍されています.この間,同君は実践教育訓練研究協会専門部会幹事及びジャーナル編集委員,職業能力開発大学校カリキュラム作業部会委員及び応用短期課程モデル教材開発委員会座長等の役職も歴任されてきました.

 こうした経歴を通じて,同君は技術士として高度かつ実践的な技術力を生かしつつ,業界や地域ニーズに対応した独創的な企業技術者向け技術セミナーを多数開発し,2001年から現在までに数多くのセミナーを実施して,技術教育に多大な貢献をされてきました.その主な分野は高周波回路,光ファイバ通信,地上デジタル放送,ケーブルテレビ等であり,内容は各専門分野の理論説明はもちろん,独自に開発した教材を用いた実践的な実験実習をはじめ,動画像や写真を用いた施工技術の説明や現場におけるトラブル対応等多岐にわたります.

 これら技術セミナーの教育効果につきましては,同君が執筆した各種論文等に記載されていますが,特筆すべき点は受講者から高い評価を得ていること,また多くの受講者がセミナーで習得した技術を生かして,実際に企業で即戦力として実務に携わられていることです.

 以上のように同君が,企業技術者向け技術セミナーを通して多くの実践技術者育成活動に取り組んでこられた功績は極めて顕著で,本会の教育優秀賞を受賞するに誠にふさわしいと考えますとともに,同君の今後の一層の活躍を期待しています.

区切

産学協働による高度セキュリティ人材育成プログラムの開発と実施

受賞者 砂原秀樹

 砂原秀樹君は,1988年慶應義塾大学大学院理工学研究科を修了し,電気通信大学助手,奈良先端科学技術大学院大学助教授,同教授を経て,2008年から慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授に就いています.この間,計算機アーキテクチャ,インターネット,センサネットワークの研究に従事するとともに,大学間の連携と産業界との協働による高度情報セキュリティ人材育成プログラムを率いて,開発と実施に貢献してきました.

 2007年度からの文部科学省「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」(セキュリティ分野)において,同君は関西圏を中心とする4大学院と企業等を結集した「社会的ITリスク軽減のための情報セキュリティ技術者・管理者育成(IT Keys)」を主導し,即戦力となる実務者を育成するプログラムを開発して実施する前例のない試みを成功させました.次いで2012年度からenPiTで全国の5大学院が連携する実践セキュリティ人材育成コースSecCapの開発を率い,他大学院の参加も得て,我が国全体が必要とする人材の育成体制を作り上げました.更に2016年度からの第2期enPiTではセキュリティ分野のBasic SecCapコースに尽力しています.

 IT KeysとSecCapは事業評価及び参加大学,修了生,産業界のいずれからも高評価を受け,輩出した376名の認定修了生の多くが,産業界あるいは大学の中核人材として活躍しています.2015年度からの戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」研究開発において,同君はサイバーセキュリティ人材育成を担当し,これらの実績を踏まえて,スケーラブルかつ持続的な人材育成に取り組んでいます.

 これらの教育プログラムの開発と実施は,言うまでもなく同君一人の貢献によるものではありませんが,同君の構想力,企画力,人脈,そして何より行動力なくしては決して成し得なかったものであることは関係者一同が認めるところであり,一連の成果に関する主たる貢献者として本会の教育優秀賞に同君を推薦致します.

区切

工学教育における反転授業の先駆的取り組み

受賞者 塙 雅典

 塙 雅典君は1995年埼玉大学大学院博士後期課程(生産情報科学専攻)を修了し,同年山梨大学工学部助手に採用されました.その後2002年同大学助教授,2014年同教授,2015年から同大学大学教育センター長,2017年同大学学長補佐に就任し,現在に至っています.

 同君は,ICTの発展を背景に,他者とのコミュニケーションを通じて知識を深める新しい教育スタイルを,自ら担当する情報通信系の授業で試行錯誤しながら実践しました.特徴的なところは,従来の授業の大半を占めていた一斉講義部分を動画像とし,インターネットを通じて事前提供することで,従来と比べて知識伝達量を落とすことなく,貴重な対面授業時間を,学生にとって一方的・受動的な一斉講義から,学生自身の主体的・協調的な学び合いの時間に転換した点です.この方法は,今では「反転授業」と呼ばれています.この取組みは,山梨大学と富士ゼロックス株式会社の産学共同研究の枠組みの中で行われましたが,この中で簡易に事前学習動画像を作成できるようにすることで教員の負担を低減するツールの実現にも貢献しました.

 この反転授業の取組みの成果は,授業外学習時間の増大に起因した試験成績の大幅な向上としてエビデンスとともに示されています.この成果は学内での反転授業展開の原動力となり,また2013年9月の日本教育工学会第29回全国大会で発表されるや大いに注目を集め,その後,日本経済新聞,NHK「おはよう日本」などで相次いで取り上げられました.本会総合大会においても2014年3月に「TK-7-3 大学専門科目におけるICTを活用したアクティブラーニング」としていち早く紹介されています.これらの研究報告・報道を知った全国の大学等から招待講演を受け,反転授業の全国展開を行っています.

 このように同君はこの反転授業手法開拓の取組みと普及活動を先駆的に行うのみならず,山梨大学や工学教育の枠を超えた全国展開を主導し,極めて大きな成果を上げています.本会会員がこのような先駆的で影響力の大きな取組みを推進していることは,本会にとっても名誉なことであり,本会教育優秀賞にふさわしいと確信し,同君を推薦します.

区切


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