小特集 10. バーチャルリアリティ映像から受ける生体影響の評価

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高臨場感映像・音響が創り出す新たなユーザ体験の評価技術

小特集 10.

バーチャルリアリティ映像から受ける生体影響の評価

Evaluation of Biomedical Effects Caused by Visual Images in Virtual Reality Environment

氏家弘裕 渡邊 洋

氏家弘裕 国立研究開発法人産業技術総合研究所人間情報研究部門

渡邊 洋 国立研究開発法人産業技術総合研究所人間情報研究部門

Hiroyasu UJIKE and Hiroshi WATANABE, Nonmembers (Human Informatics Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tsukuba-shi, 305-8566 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.8 pp.832-837 2018年8月

©電子情報通信学会2018

abstract

 映像技術の進歩とともに,超高解像(UHD)映像や3D映像が身近になり,またバーチャルリアリティ(VR)型のヘッドマウントディスプレイ(HMD)の一般市場への流通が開始され,映像の医療,福祉,教育など多様な分野での利用が期待されている.ただしそのためには,映像酔いやVR酔いなどの映像の生体安全性に対する配慮が不可欠である.本稿では,映像酔いやVR酔いの原因仮説や生体影響計測法,生体影響要因などについて概説するとともに,現在進められつつある映像酔いやVR酔いを軽減するための人間工学的指針の国際標準化について紹介する.

キーワード:映像酔い,VR酔い,生体影響,人間工学的指針,国際標準化

1.は じ め に

 映像技術の進展に伴い,様々な映像表示媒体を通じて,映像を便利に利用できる環境が構築されてきた.とりわけ超高解像(UHD)映像の実用化やヘッドマウントディスプレイ(HMD)の一般市場への展開など,リアリティの高い映像の視聴が比較的容易になっている.

 このような優れた映像技術を生かした様々な応用展開を図るためには,場合によって生じ得る映像酔いやとりわけバーチャルリアリティ(以下,VR)環境での酔い,すなわちVR酔いなど,好ましくない生体影響をできるだけ生じないように配慮することが必要である.このような観点から現在,映像酔いを軽減するための人間工学的指針やHMDの人間工学的指針の作成とその国際規格化が進められようとしており,基盤となる知見の集積が重要となっている.

 本稿では,映像酔いやVR酔いの概要を述べた後,これらが生じる原因についての仮説や,実際の生体影響計測法と明らかにされてきた主な知見について概説し,更に映像酔いやVR酔いの軽減策に関し,人間工学的指針の国際標準化において基本となる考え方を紹介する.

2.映像酔いとは

 映像酔いとは,映像を観視することで生じるいわゆる乗り物酔いのような体調不良の状態を指し,そのきっかけとなる主要な要因は,映像に含まれる動き,すなわち視覚運動であると考えられる.一般には映像に映し込まれたシーンの中を自由に動き回るような映像や,手持ちカメラ等で撮影されたいわゆる手振れ映像などで生じやすいことが知られており,更に5.にて後述するように映像の見掛けのサイズなど視覚表示の要因や映像を観察する観視者の要因の影響を受ける.

 これに対し,ドライビングシミュレータやフライトシミュレータなどの利用時の酔い症状の発生についてはシミュレータ酔いと呼ばれており,最近注目されているVR環境で生じる酔いは,VR酔いやサイバー酔い,VE(Virtual Environment)酔いなどと呼ばれる.これらの場合,表示される映像が頭部の向きや動きに応じて切り換えられたり,映像に同期したモーションベースの動きにより身体にかかる加速度などがシミュレートされたりする場合があり,VR酔いのきっかけとなる主要因は映像酔いのそれに加えて,幾つか検討が必要である.本稿では,映像酔いと,VR酔いのうちモーションベースなどによる身体全体の動きを伴わないVR映像による酔いについて考える.


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