巻頭言 持続可能な開発のためのアジェンダへ向けた学会の方向性――社会との対話――

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Vol.102 No.1 (2019/1) 目次へ

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巻頭言

会長 安藤 真持続可能な開発のためのアジェンダへ向けた学会の方向性――社会との対話―― Future Approach in IEICE toward SDGs: Communication with the Society

 会長就任後,既に半年を過ぎた.挨拶の際に掲げた施策を,この間にも変化する社会や技術の動向とともに振り返り,残りの半年へ向けて「社会との対話」をテーマに学会の方向性を探りたい.

 ・SDG’sの浸透

 国連が掲げた17の目標「持続可能な開発のためのアジェンダ2030(Sustainable development Goals-SDG’s)」は,7月に文理統合の組織International Science Council(ISC)の誕生を促し,国内でもSociety5.0の解釈や企業のビジョンとして,広く浸透した年であった.SDGsは道筋というより大きな課題の列挙であり,具体的な社会実装,課題間の矛盾や整理などの調整には,科学技術者そしてその活動の場を提供する学会の,合理的な判断が求められる.

 ・技術と情報の変革

 電子情報通信の変化は速度を増している.5年前にはSDGs同様なじみの薄かったサイバーフィジカルシステム(CPS)という概念は,今のディジタル技術を駆使した社会実装全てを的確に当たり前に表現するまでになっている.仮想と現実の二つの世界をつなぐ,センサ,人工知能AI,ビッグデータ,ロボットの急速な進化で,CPSは本当に回り始めた.日本が世界をリードするセンサ技術を駆使し,質の高い実データを集めることや,“小さな”ビッグデータからも精度の良い解を導く外挿型のAIや,匠の技や伝統などのアーカイブにも挑戦するなど,日本の強みを生かすCPS実現への模索が続いている.

 学会の動きについて述べる.

 学会の情報システムが一新される.これにより,コンテンツの活用,会員増強,全ての研究活動と,これを支える事務局業務を総合的に支援する.システムの制約が大幅に緩和され,これにより,学会改革の様々なアイデアを,試行することが可能となる.英文論文誌のオープンアクセスオプションが,本年1月から全ソサイエティが統一的な形でスタートする.英文論文の引用度数の上昇を加速するために,先行して広い販路を有している他学会や出版社などへの掲載やパッケージへの参加などの可能性を,これまでのようにソサイエティレベルではなく学会として検討することができる.加えて,国内関係学会と共通あるいは相互乗り入れの検索プラットホームを構築することも,魅力がある.これはI-Scoverの理念に近い.

 次に,社会との対話の一環として,政府・省庁・他学会との連携に関し,企画戦略室の活動を中心に述べる.

 官との連携として,ソサイエティ大会において,各省庁の予算策定者を招きSociety5.0の国の取組みを,予算やプロジェクトの面で紹介頂いた.立ち見も出るほどの盛況となった.ICT分野の推進という共通の目的に,省庁の壁を意識せず,国の施策,研究予算の動向などの視野を広げ,同時に学会の研究成果の社会実装を加速する狙いである.総務省とは,ICT政策について継続的に情報交換の場を設けるとともに,SCOPEなどの制度も活用した地方総合通信局と学会の支部との協働が,九州や東北で行われている.

 研究成果の社会実装のための橋渡し機能は,学会こそが果たすべき役割である.人材の流動性が低い日本では,学会という学術交流の土俵で組織を超えたチームを編成し,社会実装のアイデアを競う形が自然ではないかと考えている.学会が研究費の受け皿として機能することは少ないが,橋渡しの交流を魅力あるものとするために必要な要素であろう.

 本会では分野の広がりとともに,専門化,細分化が進んでいる.規模のある学会には常に付きまとう傾向であるが,SDGsの示す異分野融合,複合領域の形成の観点では,これは不利な面もある.新分野の開拓や異分野融合領域の開拓を促すため,電気学会,情報処理学会,応用物理学会,日本機械学会など,関連学会,異分野学会との共同企画セッションや共同研究会開催などの連携を開始しているが,時代の変化に敏感に再編などの組織改革も常に念頭に置く必要がある.

 最後に,会員増強,ダイバーシチの向上について述べる.

 会員増強の観点では,支部における学生員の入会勧誘が鍵であると予想したが,昨年10月の信越支部長の巻頭言にもその重要性が明示されている.年に2回開催の支部会議においては,支部における学生員の勧誘を強くお願いする所存であるが,支部長を理事とする学会もあり,一考に値する.60歳を超えるシニア層を中心に,学会における活動の場を求める声も上がっている.若手の育成や世代交代の仕組みを担保した形で,初等教育からリカレント教育までシニア層の力を発揮頂く検討も進めていく.


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