小特集 リザバーコンピューティング 小特集編集にあたって

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Vol.102 No.2 (2019/2) 目次へ

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小特集

リザバーコンピューティング

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 中野大樹

 今やテレビの報道や雑誌の記事で目にしない日はないほど,人工知能という単語は世の中にあふれている.科学者でなくとも,ディープラーニングに代表されるニューラルネットワークを用いた機械学習を駆使し,様々な社会的問題に取り組んでいる.一方でこれら人工知能の技術を支えているのは,ハードウェアであるコンピュータであり,またGPU(Graphics Processing Unit)などの専用デバイスである.これらのハードウェア技術の進展なしに,今日の人工知能技術の隆盛は生まれなかったであろう.

 リザバーコンピューティングは2000年代初頭において,独立に提唱されたMaas博士のリキッドステートマシンとJeager博士のエコーステートネットワークが端緒と考えられている.両者は用いているニューロンのモデルが異なるだけで,基本的には現在リザバーコンピューティングとして統一的に理解されている枠組みと同じものである.いずれもリカレントニューラルネットワーク(ネットワーク内に再帰的な結合を持つニューラルネットワーク)の範ちゅうの概念であり,出力端の係数のみを学習で決定するという非常に単純な枠組みである.従来,リカレントニューラルネットワークは内部に再帰的な結合を持つために,全ての結合係数を決定することが困難であったが,この枠組みにより時系列データをそのまま入力して,クラス判別や時系列予測に適応できる機械学習が低負荷で実現できるようになった.アルゴリズムの詳細は本小特集を読んで頂くとして,ここではリザバーコンピューティングがハードウェアの研究開発者にとってなぜ魅力的なのかを記述したいと思う.

 冒頭で述べたように,ハードウェアの進展が人工知能の発展には必須であるが,御存じのように現在のコンピュータは半導体技術(正確にはCMOS技術)のスケーリング則に従って発展してきた.しかし,その微細化はいよいよ原子数個分のサイズとなり,物理的な限界が見えてきた.これまでのようなスケーリング則に支えられた技術の進歩はもう望むことができず,新たな計算原理に基づくデバイスの研究開発が非常に注目されてきている.既に様々な取組みがなされてきているが,機械学習を核とする人工知能のためのデバイスという文脈では専らGPUに頼っているのが現状であり,また幾つかのアナログ集積回路の研究がなされている.リザバーコンピューティングはリザバー部の特徴を抽出してみると,実は非線形性を有する物理ダイナミクスに置き換えられることが分かり,これまで計算デバイスとは余り関係のなかったメカニズムが計算に使える可能性が見いだされてきている.更に,その学習アルゴリズムの単純さが,物理ダイナミクスを使うデバイスとの親和性を高めている.本小特集でも,光,弾性体,スピンなどの物理系を用いたデバイス研究について各方面の著者に執筆して頂いており,新たな計算デバイスの研究開発という,ハードウェア研究者にとって大変興味深い研究となっている.

 繰り返しになるが,本小特集では,リザバーコンピューティングの理論的側面に触れた後,様々な物理系を使ったデバイス研究開発を紹介していく.本小特集によって,リザバーコンピューティングという計算原理の下,数理科学的なアプローチとデバイス研究のアプローチの二つの分野の研究者が手を組んで,新たな計算ハードウェアを作り出していく最前線に触れて頂けると期待している.

小特集編集チーム

 中野 大樹  小野 智弘  犬伏 正信  黒川 茂莉  戸田 真人  西田 武央  藤田 悠哉  三浦 康之 


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