小特集 6. スピン波リザバーコンピューティングチップデバイス

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Vol.102 No.2 (2019/2) 目次へ

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リザバーコンピューティング

小特集 6.

スピン波リザバーコンピューティングチップデバイス

On-chip Reservoir Computing Device Utilizing Spin Waves

中根了昌

中根了昌 東京大学大学院工学系研究科国際工学教育推進機構

Ryosho NAKANE, Nonmember (Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, Tokyo, 113-8656 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.2 pp.140-146 2019年2月

©電子情報通信学会2019

abstract

 リザバーコンピューティングチップデバイスは,情報ネットワークに技術革新を起こすエッジコンピューティングへの応用が期待できる.本稿では,はじめにチップデバイス実装を目指した物理リザバーコンピューティングの研究背景,優位性,要求特性,機能性についての説明を行う.これらについては,特定の物理系を想定しない記述となっている.その後,筆者の研究グループが提案したスピン波リザバーコンピューティングチップデバイスの特徴と推定タスクの例を示す.最後に,この研究分野の課題と今後の展望について記述をする.

キーワード:リザバーコンピューティング,学習チップデバイス,スピン波,汎化特性

1.は じ め に

 近年,学習機能を有するシステムを利用した情報処理の研究が精力的になされている.これは従来のシステムでは困難な情報処理やエネルギーコストの掛かる情報処理において,その優位性が発揮できると期待されるためである.それらの研究の主な対象は,膨大なデータを用いた分類問題,推定問題,予測問題,最適化問題,などであり,現在はGraphics Processing Unit(GPU)アクセラレータを用いたハードウェアを利用してソフトウェアベースでニューラルネットワークを実装する方法が主流である.こうした研究は,情報処理そのものに優先度が高く設定され,システムの電力コストは度外視されている.

 近い将来に実現の期待されるInternet of Things(IoT)社会では,端末機器から取得された膨大なデータを適切に情報処理して有効利用することにより,社会インフラ,農業,物流,工場,医療など,多くの社会生活や人間生活様式そのものに変革を起こすことが期待されている.それらを達成するためには,情報ネットワークシステムの随所に技術革新が必要である.高度な情報処理を行う中枢機器は大規模な電力供給が可能なため電力コストを度外視した従来研究でも可能であるが,端末機器周辺は電力供給などの様々な制限があり従来研究では対応ができない.したがって,端末機器周辺の機能性を改善するには,リザバーコンピューティングチップデバイスが非常に有望である.

 本稿では,はじめに情報ネットワークへ応用が期待されるリザバーコンピューティングチップデバイスの研究背景とデバイスに求められる特性について記載する.次に,スピン波の概要とリザバーコンピューティングデバイスに有用な特性を説明した後,筆者の研究グループが提案したスピン波リザバーコンピューティングチップデバイスの紹介と機械学習による推定タスクの一例を示す.最後に,今後の展望とむすびを記載する.

 筆者は電子デバイスを長年専門としており,そうした「デバイス屋」が容易に理解できるように記述を行った.リザバーコンピューティング数理の詳細については,本小特集の他の解説を参照されたい.

2.研究背景:エッジコンピューティング

 現在の情報ネットワークシステムでは,様々なセンサなどの端末機器が取得したデータをデータセンターに送信して情報処理を行い,その情報を端末機器に送信する,いわゆるクラウドコンピューティングが行われている.このとき,時系列データを常にデータセンターに送信するとネットワークトラヒックが混雑してデータ・情報転送の遅延が起きるため,端末周辺において迅速に情報を取得することができなくなる.今後,こうした端末機器のデータが増え続けネットワークトラヒックの大半を占めることが予想されており,現在の情報ネットワークシステムではその能力を十分に発揮することができなくなる.


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