小特集 1. クリエイティビティの本質とAIによるイノベーション

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創造性・芸術性におけるAIの可能性

小特集 1.

クリエイティビティの本質とAIによるイノベーション

What Is Creativity?: Possibility of Innovation in AI

栗原 聡 川野陽慈

栗原 聡 正員 慶應義塾大学理工学部管理工学科

川野陽慈 慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻

Satoshi KURIHARA, Member(Faculty of Science and Technology, Keio University, Yokohama-shi, 223-8522 Japan)and Yoji KAWANO, Nonmember (Graduate School of Science and Technology, Keio University, Yokohama-shi, 223-8522 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.3 pp.208-213 2019年3月

©電子情報通信学会2019

abstract

 昨今のディープラーニングを中心とする人工知能技術の進展により,画像認識や自然言語処理など,人ならではの様々な能力が,急速なスピードで我々を上回る性能で実現され,かつ利用可能になりつつある.そして,従来は定型的な作業が得意と考えられてきた人工知能が,これまた人ならではの「創造力を必要とする領域」に対しても進出しようとしている.しかし,人工知能がどこまで,そしてどのような創造力を発揮できるのかは現時点では未知数である.そこで,そもそも「創造すること・イノベーションを起こすこと」とはどういうことかについて,人工知能によりドラマや小説のシナリオを自動生成させようという,現在進行中の研究プロジェクトを題材として考察する.

キーワード:創発,ネットワーク,イノベーション,クリエイション,シナリオ自動生成

1.創造するとはどういうことか?

 「創造力こそ人ならではの能力」という言い回しを否定する人はいない.確かに人は「考える葦」であり,考えることで創造力を発揮し,その結果が現在の高度に発展した科学技術であり文明である.しかし,計算力や記憶力などはテストにより明確に点数を付けることが可能であるが,創造力はどのようにして測ることができるのであろうか? 小学校時代の通信簿を思い出すと,図画工作の評価はどのようにして決められていたのであろうかと不思議に思う.計算テストのような明確な評価手段が存在しない以上,基本は教師の主観に頼るしかないのが実情であろう.そもそも創造するとはどういうプロセスなのであろうか? また,類似する言葉でビジネスシーンで多く見かけるのが「イノベーション」という言葉である.そして,学校と異なり,ビジネスシーンでは「創造力」という言葉は余り聴かれない.それぞれ類似した言葉であるが,双方意味するところは異なるわけで,この辺りから考察できればと思う.

 図1を御覧頂きたい.図1の個々の点は我々が創造した“もの”・“こと”であるとする.「〇〇な性質を持つ〇〇物質を発見した」とか,「〇〇の性質を持つ最適解を求める方法を考案した」といった類いであり,何もなかったところに新たに点を生み出す作業が創造であるとしてみる.アインシュタインが考えた相対性理論も,生み出された点の一つであり,当たり前であるが創造力により生み出された点は我々に多大な恩恵をもたらす.これに対して,イノベーションとは「点と点をつないで創発を起こすことで新たな“もの”・“こと”を生み出す作業である」と筆者らは捉えている.イノベーションにより生み出された新たな価値感などが,新たな創造としての点を生み出すこともあるであろうし,更に別の点と結び付いて新たなイノベーションを起こすこともあるであろう.その意味では,創造という行為も,ゼロから生み出すというより,イノベーションの過程で生み出されるという理解の方が自然かもしれない.つまり,本質は「点と点をつなぐことによる創発」にあると言えよう.


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