小特集 5. 格子パターンと平たん折りの数理

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折り紙の科学

小特集 5.

格子パターンと平たん折りの数理

Grid Patterns and Mathematics of Flat Origami

三谷 純

三谷 純 筑波大学大学院システム情報系情報工学域

Jun MITANI, Nonmember (Faculty of Engineering, Information and Systems, University of Tsukuba, Tsukuba-shi, 305-0006 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.4 pp.317-322 2019年4月

©電子情報通信学会2019

abstract

 紙を折る操作で得られる図形の幾何学的な性質は古くから研究の対象とされてきた.本稿では折り紙の数理に関する研究の中で,特に平たん折りの研究についてまとめるとともに,筆者らが最近取り組んでいる,折り線の配置を格子パターン上に限定した問題を複数紹介する.平たん折りに関する問題の主要なテーマは,与えられた展開図が平たんに折り畳み可能であるかを判定することであるが,実際に折った後の形や裏表の色の違いによって現れる絵柄など,考察する対象を広げると,そこには数多くの興味深い問題が存在する.

キーワード:折り紙,平たん折り,展開図,格子パターン

1.平たん折りに関する研究の背景

 近年折り紙は,工学,数学,教育,芸術など幅広い分野にまたがる学際的な研究対象として注目されている.その中で本稿では,折り紙の数理に関する研究における,特に平たんに折り畳まれる状態を対象とした研究を紹介する.本章を含む前半部分で,平たん折りに関する研究の背景や基本定理の紹介をした後,後半では特に折り線の配置を格子パターン上に限定した展開図に関して筆者らが取り組んできた内容を複数紹介する.

 平たんに折り畳むことを対象とした折り紙の幾何では,紙は直線によって手前側または奥側に向かって180度折られるものとし,それぞれを谷折り,山折りと呼ぶ.また,紙の厚さをゼロとみなすが,折り畳まれた状態で紙の交差がないことが折り畳みの条件となる.開いた状態から折り畳まれた状態までの形の遷移については議論しない.紙の上に,折るべき線(折り線)を記したものを展開図と呼び,折り方が山と谷のどちらであるかが区別されたものを「山谷付き展開図」と呼ぶ.山谷付きでない展開図の場合は,折り線をどちら側に折っても構わないものとする.与えられた展開図が平たん折り可能であるかどうかを議論する際には,事前に山谷が割り当てられているか否かが重要な点となる.

 はじめに,平たん折りの数理についての歴史を概観する.折りに関する約400もの文献を網羅したDemaineらによる大著(1)によると,折り紙を幾何学の分野で取り扱った最古の文献は1840年に出版されたLardnerによるもの(2)であるとされ,その中では角の二等分が辺を合わせて紙を平らに折る操作で得られることなどが記されている.また,折り紙を利用した作図法に関する研究をまとめた文献が1893年に出版され(3),コンパスと定規を用いた作図が,紙を折る操作で代替可能であることが示された.1930年代には紙を折ることによる三次方程式の解法の可能性についてまとめた文献がBelochによって著された(4).20世紀後半には,与えられた展開図が,平たんに折り畳み可能であるかどうかを判定する,平たん折り可能性についての研究が行われるようになり,局所的な領域に着目した平たん折り可能性に関する定理が,同時期に独立に発見された(5)(7).またこれに続き,与えられた展開図が平たん折り可能かどうかを判定する問題に関する計算複雑性に関する論文が数多く著されるようになった.これらについて詳しくは次章で述べる.


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