末松安晴賞贈呈

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Vol.102 No.7 (2019/7) 目次へ

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2018年度 第5回 末松安晴賞贈呈(写真:敬称略)

 本会選奨規程第20条(電子情報通信分野において,学術,技術,標準化などにおいて特に顕著な貢献が認められ,今後の進歩・発展が期待される)に基づき,下記の2件を選び贈呈した.

学術界貢献

次世代ワイヤレス通信ネットワークのためのディジタル信号処理・符号技術に関する研究開発

受賞者 杉浦慎哉

 杉浦慎哉君は,2002年に京都大学工学部物理工学科を卒業し,2004年に同大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程,2010年に英国サウサンプトン大学School of Electronics and Computer ScienceのPh.D.コースを修了した.2004年から2012年にかけて(株)豊田中央研究所に勤務した後,2013年から,東京農工大学大学院工学研究院に准教授として着任して活躍された.その後2018年から,東京大学生産技術研究所に准教授として着任し,現在に至っている.

 将来のワイヤレス通信システムでは,重要な資源である利用可能な周波数が限られる中,高速化だけでなく信頼性・即応性・多数端末同時接続などのトレードオフ関係にある複数の性能要求を,アプリケーションに応じて高い次元で満たすことが求められている.

 同君は,当分野が直面する課題を解決するための信号処理・プロトコル技術の研究開発に従事してきた.特に,符号化技術や変復調技術の研究を通して多くの学術的成果を創出した.代表的な成果として,空間変調(またはインデックス変調)やFaster-than-Nyquist(FTN)信号伝送についての技術的貢献がある.

 空間変調は,マルチアンテナシステムにおいてスパースなリソース配分を行うことを特徴としており,送信機において同時使用するアンテナ素子数を限定することで高い電力効率と送信レートを同時に達成可能なシングルRF送信機を構成できる.同君は,空間変調において特有の課題であった通信の広帯域化や現実的なパルス整形,リソース配分の時間・周波数領域への拡張・一般化などにおいて多数の提案を行った.また,チャネル推定を不要とする非同期空間変調方式を提案しており,パイロットオーバヘッドとチャネル推定に関わる課題の解決策を提示した.

 更に同君は,原著論文による新規知見の貢献だけでなく,注目度が高まっている空間変調やインデックス変調についてのチュートリアル論文を執筆することで,最新関連技術を含めた形で体系的に分類し,それらを統一的に比較可能なモデルを提示した.また,当技術のメリットだけでなく適用限界を明らかにするなど,学術的な貢献も大きい.

 以上のように,同君の電子情報通信分野における貢献が顕著であるため,本賞を受賞するにふさわしいと考える.同君の今後の更なる進歩や発展を期待する.

区切

産業界貢献

携帯電話システムのネットワークアーキテクチャ及び無線インタフェースプロトコルの標準化

受賞者 ウメシュ アニール

 ウメシュ アニール君は,第3世代以降の携帯電話システムの仕様作成を担う3GPP(3rd Generation Partnership Project)を中心に,第3.5世代(HSPA: High-Speed Packet Access),第4世代(LTE: Long-Term Evolution及びLTE-Advanced),第5世代(5G)の携帯電話システムのネットワークアーキテクチャ及び無線インタフェースプロトコルの標準仕様策定に従事し,携帯電話システムの発展・実用化に多大な貢献を行ってきた.

 上記の活動を通じて,同君は,3GPPの標準仕様策定のため数多くの技術提案を行うとともに,発明者として多数の標準必須特許を取得している.3GPPの作業部会では,世界各国の通信事業者やグローバルベンダの参加者を代表して取りまとめ役(エディタやラポータ)にも指名され,リーダシップを発揮して仕様完成を実現してきた.第3.5世代携帯電話(HSPA)では,インターネット接続に代表されるデータ通信サービスの高速化が大きな課題であったが,同君は無線インタフェースプロトコルを規定する3GPPの標準仕様(TS25.309,TS25.321等)向けに,多数の技術提案を行い,主要各社と協力して標準仕様を完成させた.第4世代携帯電話(LTE/LTE-Advanced)の無線アクセスネットワーク(RAN)のアーキテクチャ検討では,第3世代携帯電話システムで採用していたRNC(Radio Network Controller)と呼ばれる集約制御ノードを廃止し,RNCが担ってきた機能を基地局に配置することを提案し,3GPPの標準仕様(TS36.300)に採用させることに成功した.これにより,携帯電話通信における低遅延化が実現され,遅延の要求条件が厳しい新しいサービスの導入も可能となった.直近の5Gの標準化では,基地局装置の構成において,異なるベンダの集約ノード(CU: Centralized Unit)と分散ノード(DU: Distributed Unit)を相互接続可能にするインタフェース仕様の標準化を精力的に進めており,3GPPにとどまらず他の標準化団体(xRAN,ORAN Alliance)にも活動領域を広げている.なお,ORAN Allianceでは作業部会の共同議長も務めている.

 以上,同君が担ってきた一連の標準化活動は,携帯電話システムの発展・実用化に欠かせないものばかりである.今後の一層の活躍を期待する.

区切


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