巻頭言 学会が生き延びるための差別化戦略を考えよう

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Vol.106 No.2 (2023/2) 目次へ

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巻頭言

学会が生き延びるための差別化戦略を考えよう Let’s Think about a Differentiation Strategy for the Survival of the Academic Society東北支部長 陳 強

 電子情報通信学会の会員数は2021年の時点で約2万2,000人となり,ピーク時の1990年代の約半分になってしまいました.直近10年間のデータを見ますと,正員は約3割,学生員は5割強とそれぞれ大きく減少しています.学会会員数の変化は,1990年代から始まった慢性的な経済不況や生産年齢人口の減少,エレクトロニクス事業の海外移転などによる影響が大きいと考えられますが,それ以外に原因はないでしょうか?

 学問と技術の「交流」と「評価」の場として,プラットホームを提供することは,学会の大きな役割だと考えております.プラットホームの品質により,学会の価値が決まり,研究者と技術者を引き寄せる力が決定されます.「交流」の場としては,本会は第一種研究会や第二種研究会,大会,ワークショップなどの充実した学会活動を提供することにより,かなり役を果たしていますが,インターネットから必要な技術情報を簡単に手に入れる時代になり,「交流」の役割は相対的に下がっています.一方,会員は学会における客観的な学術的な評価を受けることにより,自分のキャリアパスに有利に働くという学会の「評価」の場としての役割が重要になりつつあります.私どもの大学では,数年前までは,論文数で業績を評価しましたが,近年は論文の被引用数,インパクトファクターが主な評価指標になりました.しかしながら,本会は,「評価」の役割においては,IEEEなどの海外の学会から大きく差をつけられています.しかも現状では,その差を縮めるのは容易ではありません.

 「二兎を追うものは一兎も得ず」.であれば,「評価」の役割を部分的に諦めることにして,「交流」にもっと力を入れて会員サービスをもっと充実したらどうでしょうか? 会員サービスの改善策について,既に多くの方が考えており,様々な良いアイデアが実施されていますが,他学会との「差別化」が重要だと考えています.例えば,論文誌に掲載する論文として,もっとチュートリアル論文やレビュー論文を増やしたらどうでしょうか? これらの論文は,学生の教育や会社の技術者育成などに非常に役に立つはずです.近年,音楽配信サービスやソフトウェア利用の年間ライセンス制などのサブスクリプションというビジネスモデルが定着しています.それを模倣し,年間会員費を払えば,研究会や大会などの参加費から論文掲載料まで,全て無料にできないでしょうか? 高額な登録費を払わないとセッションループに入れない国際シンポジウムでも,質問ができない聴講だけのオンライン接続URLを世界中に無料でばらまいたらどうでしょうか? 一昔前,にぎやかな駅前で情報通信端末を無料で配布する光景はまだ記憶にあります.端末の無料配布については,様々な議論がありますが,まず顧客を増やし,シェアを拡大することは最終的に安定した利益の獲得につながるというビジネス戦略は決して間違ってはいないと思います.一時的な利益より,参加者を増やし,インパクトを作ることは何よりも重要です.特に学会にとっては.

 2017年に100周年を迎えた本会は,将来に向けた創立100周年宣言を取りまとめました.その第1条では,「広汎な知が交流する場を作り,新たな学術領域をひらく」と書かれています.100年の長い歴史を有する老舗となった本会は,この際,過去の成長経験や常識などに捉われず,現状と自身の価値をきちんと認識し,自信と目標をしっかり持って,時代と情勢に適応した学会の姿に仕上げていくことが求められると思います.


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