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今日の米国社会に象徴されるように,現代社会は,政治的な指向や経済的格差,文化的相違などの要因によって,激しく分断,対立するようになってきています.この分断と対立は,社会の安定と調和を脅かし,戦争を生じたり,無用な争いによって個々人の幸福を損なう結果を招いています.情報通信技術の産物であるインターネットやソーシャルメディアが,情報の偏った選別やエコーチェンバー現象を引き起こし,異なる意見がむしろ対立しやすくなる構造を提供してしまっています.結果的とはいえ,電子情報通信技術がむしろ分断,対立をあおることに使われているのだとすると,同技術に携わる我々学会員としてこれほど残念なことはありません.
今こそ電子情報通信技術を,社会の分断や対立を抑える方向に発展させていく必要と責任があると思います.そのためにはどうしたらよいでしょうか.まずは情報の透明性,正確性,公正性が自動的に担保されるようなインフラとする必要があります.AIやビッグデータ解析を活用してフェイクニュースや誤情報を自動検出し,正確な情報のみを提供することは今の技術でもやろうと思えばすぐにできます.しかしそれだと情報が「面白く」なくなってユーザ離れにつながる(つまりもうからなくなる)ので,プラットホーマたちは余り積極的にはやろうとしません.情報流通を「規制する」のではない,別のやり方を研究する必要があります.
次に,教育の普及と質の向上につながる電子情報通信技術を指向することも,分断と対抗するに有効と思われます.MOOC(Massive Open Online Courses,大規模公開オンライン講座)などのオンライン教育プラットホームを通じて,誰もが質の高い教育を受けられる環境を整えることも重要で,長い目で見て世界の経済的な格差を縮小することにつながります.平等な教育機会の提供は,国内外の社会の分断の緩和に有効です.電子情報通信技術が今後発展していくべき方向の一つでしょう.
更に,異なる文化や背景を持つ人同士が空間的距離を超えて容易に対話し,理解を深めることができる環境を提供することも,電子情報通信がこれまで担ってきた大きな役割でした.今後は仮想現実技術などを活用して,これをますますリアルなつながりとして進化,発展させることは,分断の克服につながる方向に一致します.そのほかにも,例えばブロックチェーン技術を用いた透明な投票システムは,選挙の公正性を確保し,政治的な対立を緩和するツールとすることができますし,ディジタルプラットホームを通じて市民が政策決定に参加する機会を増やすことで,政治への信頼を回復し,社会の調和を促進することができます.このように電子情報通信技術は,社会の分断を助長するのではなく,調和・平和を実現するための強力なツールであるべきです.
最後に学会の役割ですが,学会こそまさに融合,協調,協力のプラットホーマです.無論,学会の中で対立することもなくはありませんが,学会の仕組みそのものが,企業間,大学間,省庁間,国籍間の違いや,産学官の違いを越えて,お互いを知り,協力する場を提供することにほかなりません.その意味で,学会員になることがすなわち分断に対抗する行動であると言っても過言ではありません.
私たち学会員は共に努力し,未来の社会をより良いものにするために挑戦を続けていく必要があります.電子情報通信技術の力を最大限に活用し,社会の分断を克服し,一人一人の幸福を実現するためにまい進して行きましょう.
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