自由自在 Jiyu-Jizai

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Vol.99 No.12 (2016/12) 目次へ

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 漢字四文字の熟語というのは中国故事に端を発するものが多く,その意味するところは含蓄が深い.私は子供の頃から「自由」という言葉が好きであったが,自由を用いた四文字熟語「自由自在」となると,後半の二文字「自在」の意味するところが今一つよく分からない印象であった.年を経て経験を積むとようやく「自由」と「自在」の二つの言葉の間に存在する大きな違いが分かるようになった.それはそれらが否定された状態を考えれば直ちに理解できることであるが,「自由」が多分に外的制約条件の有無に関する状態を表すのに対し,「自在」は自己の能力,いわば内的要因に関する用語である.

 科学技術の歴史を振り返ってみると,人類は「不自由」すなわち自己にとっての外的な制約条件をできる限り少なくするための方法を追求してきた.例えば,電子情報通信学会の「通信」の英語である“Telecommunication”は“Tele-(遠く離れた)”+“Communication(意志疎通)”であり,明らかに空間距離についての制約を克服することがその目的であった.“Tele-”の付く単語で最も古くから発達したものは多分“Telescope”だと思うが,これはガリレオ・ガリレイの時代に遡るから,人類の空間距離についての制約の克服には400年以上の歴史があることになる.20世紀には通信に自動車と航空技術を併せた大きな進歩によって,空間距離による制約は大幅に緩和され,21世紀の現在では,インターネットにより地球上のどこの国の情報でも即時に入手できるようになった.この意味では通信を含む科学技術は人類の「自由化」に大きな成功を収めた.

 一方で,かつてテレビ番組でジャーナリストの立花隆氏が大変ショッキングな言葉で日本の若者の状況を表現していたのを思い出す.彼は,今の日本は「第3の鎖国状態」にある,と言っていた.第1の鎖国は江戸時代,第2の鎖国は第二次世界大戦であり,そして現在の若者はICT技術に親しみインターネットで情報収集する能力にたけているのにもかかわらず,アクセスするホームページはほとんど日本語のホームページであり,世界のホームページにアクセスしてそこから情報を得ることが少ない,と.過去の2回の鎖国によって日本が危機的状況に直面した直後(第1回目は黒船来航後の欧米列強国による植民地化の危機,第2回目は敗戦),日本の将来を危惧した若者はいつも海外に目を向け,海外の情報を鏡としてあるいはそれを有効な手段として日本の進むべき道を模索して作り出してきたけれど,今の日本の若者は海外に目を向けていない,というのである.

 世界的な政治・経済・環境の影響をまともに受ける日本にとって,国内のみの情報で今後の日本の進むべき道を考えるのが危険なことは明白であり,今の日本の若者の状況を憂う立花氏の考えはよく理解できる.それは日本の大学にいても,同じ研究室の海外からの留学生と日本の学生を比較して感ずることであり,特に海外から来る多数の留学生の活気に比べて,日本から海外への留学希望者が少なくなったのは心配である.「自在」に到達するには,幅広い知識を学び,自己の能力を切磋琢磨する必要があるが,それを求めなければ与えられることはない.

 我々に今求められるのは,研究技術開発で人類を「自由化」していくとともに,学生や若い人たちの内的能力を高め「自在化」を加速することであろう.自己の能力を絶えず向上させる姿勢を持ち続けることが,長い人生の様々な場面においていかに重要か,また自己を活性化するために何をしたら良いかを教え,考えさせることが,「自在化」を教えることにほかならないように思う.


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