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ITによる生産性向上が社会の中に一通り行き渡った今,新しいイノベーションが起きつつある.ITを前提にビジネスや社会の仕組みを作り変えるトレンドだ.ユーザ別にオークションで広告を提示するリアルタイムビディング,空いている自家用車や部屋を必要な人に結び付けるUberやAirBnB,自動運転車,個人ごとに最適化された医療などは,いずれもITがなければそもそも存在し得ないビジネスである.現在の社会の仕組みの多くは,元々ITがない時代に考えられた.ITが飛躍的な発展を遂げた今,ITを前提にしてこれらの仕組みをゼロから作り直すとしたらどういうことが可能だろうか.この中心的な役割を果たすのがInternet of Things(IoT)と人工知能の二つである.
IoT(CPS, Cyber-Physical Systemsとも呼ばれる)は,コンピュータや端末だけでなく,センサやアクチュエータなどあらゆる機器がインターネットに接続され,データが収集・分析され,コントロールされる世界を指している.アクセンチュアのホワイトペーパー(1)によれば,Industrial IoTによるGDPの増分は2030年までに主要20か国だけで,累積10.6兆USドルであり,適切な政策を打てば,更にそれを累積14.2兆USドルまで増加させることができるという.これは製造業だけの話であり,他の分野,例えば医療,交通,農林水産業,観光,教育などあらゆる分野でIoTを使ったイノベーションが起きてくるだろう.
過去に蒸気機関や電力,電話,航空機,インターネットなど社会を大きく変えた技術革新があり,それらが社会の前提になる頃に,その技術の周囲に新しいバリューチェーンが形成されていった.IoTによるITイノベーション第2フェーズにも,同じように新たなバリューチェーンが構築されることは間違いない.一方でIoTだけでは社会を変えるほどの影響はもたらさない.人の数よりもはるかに多く様々な利用環境に置かれるデバイスに対して,人が全てその設定,プログラミングをすることはできない.そこには人工知能との融合が必要となる.
人工知能の技術がこの数年で飛躍的に向上し,何十年も解けなかった問題が次々と解かれている.この中心的な役割を果たしているのが,深層学習(用語)(ディープラーニング)と呼ばれる巨大なニューラルネットワークを中心とした技術だ.これまでにも,データを基にしてルールや知識を獲得する機械学習が広く使われてきたが,深層学習の登場以後はこうした技術が過去のものとなってしまった.深層学習の真価はこれまで人間が無意識に解いていた問題も扱えるようになった点だ.
例えば,画像認識において,「犬」か「猫」かを判別する際に,人はそれをどのように実現しているのかをうまく説明できない.どのような特徴を使っているのかも分かっていない.深層学習は,データのみから,データや問題をどのように表現するかを獲得し(表現学習),その表現を用いて分類・予測・制御など様々なタスクを実現することができる.
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