記念特集 2-2-20 歴史的展望

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Vol.100 No.10 (2017/10) 目次へ

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甘利俊一 名誉員:フェロー 理化学研究所脳科学総合研究センター

Shun-ichi AMARI, Fellow, Honorary Member (RIKEN Brain Science Institute, Wako-shi, 351-0198 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.10 p.1082 2017年10月

©電子情報通信学会2017

 脳は優れた情報処理器官であると同時に,人の心を生み出し,これが現代社会と文明の中核を成している.脳の仕組みを解明し,これにヒントを得て優れた情報技術を創出する試みは,古くからあり,生体工学の一部を成していた.

 一方,コンピュータ技術の進歩とともに,これを利用して人間の知的機能を実現する試みが,人工知能(AI: Artificial Intelligence)として開始される.これは,パーセプトロンに代表される脳のモデルとは別に,記号を用い論理で推論するコンピュータプログラムである.この二つの流れが,第一次のニューロブーム(1950年代末),AI(1956年から)ブームと呼ばれている.

 日本では本会を中心に,南雲仁一,樋渡涓二などの先覚者の下で,早くから脳のモデルの研究が進んだ.この時代,若手が国際会議に出席することなど不可能であったから,どちらかと言えば世界から孤立した状態で研究が進み,欧米におけるブームが去った後も,独自の成果をしっかりと積み重ねた.これは,本会の医用電子・生体工学研専を舞台に進んだ.日本は脳のモデル研究の先進国だった.

 1980年代に入って第二次ニューロブームが訪れる.認知科学,物理学,工学そして神経科学が一体となって,脳を模した情報処理方式の実現に向けて動き出したのである.大規模な国際会議が幾度となく開かれ,日本からも企業の技術者を含む大勢の研究者が出席した.この中で,日本の研究は高く評価され,国際学会や学術誌などで,指導的な役割を果たすようになる.

 こうした経緯で,脳のモデルを扱う独立の研専を作る動きが出てきて,1年の準備の後に,1989年にニューロコンピューティング(NC)研専が設立された.その目指すところは,脳の持つ並列の情報処理ダイナミックス,分散した情報表現,学習・自己組織機能を解明し,これを技術として実現することにあった.

 研究会は極めて活発で,3日間にもわたる開催も多くあった.また,本会が主催団体となって,IEEEなどとも組んで,神経回路網の国際会議(IJCNN)を1992年に名古屋で開催し,大成功であった.

 歳月が流れ,ブーム当初の熱気は去ったが,脳のモデルと技術に関する研究は本研専において,着実に成果を積み重ねていった.その中で起こったのが,2010年頃からの第三次AI・ニューロブームである.ここでは,多層の神経回路網を用いたパーセプトロン型の神経回路網に,深層学習と呼ぶ学習・自己組織化を用いた方式で,パターン認識などの多くの課題で,これまでの実績をはるかに凌駕し,人間の認識能力をも超える成績を収めた.言語処理や,囲碁などのゲームでもその成績は群を抜いており,これが起点となって,AIブームが起こり,産業や社会の構造を変えようとしている.

 しかし,ここで用いられている技術の多くは,日本が初めに提唱したものであり,それが日本で実らずに,外国で花開いたことは慙愧に堪えない.現在のAIは,まだまだ脳に多くを学び,更なる飛躍を遂げなければならない.日本はこれを地道に遂行する実力を有しており,使命感を持ってけん引していく必要がある.

(平成29年3月24日受付 平成29年5月15日最終受付)

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(あま)() (しゅん)(いち) (名誉員:フェロー)

 昭38東大大学院博士課程了,同年九大助教授,昭42東大助教授,教授を経て現在名誉教授.理化学研究所脳科学総合研究センターセンター長を経て,現在同特別顧問.本会会長,国際神経回路網学会会長などを歴任,平24年度文化功労者.


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