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解説
高精度ディジタルフィルタのための状態空間表現
State-space Representation for High-accuracy Digital Filters
abstract
状態空間表現は制御の分野で有名であるが,信号処理においても幅広く応用されている.特にディジタルフィルタにおいては,およそ半世紀にわたり,状態空間表現を用いた高精度フィルタ構造の実現法が数多く提案され,その高い有効性が示されてきた.しかしその一方で,数学的なハードルの高さ等の理由により,このアプローチが広く普及しているとは言い難いようにも思われる.そこで本稿では,主として手順に焦点を当て,状態空間表現に基づく高精度フィルタ構造の実現法について概説する.また,アナログフィルタ等の関連分野における研究についても紹介する.
キーワード:ディジタルフィルタ,実現問題,状態空間表現,平衡形,有限語長
ディジタルフィルタは1960年代から盛んに研究されており,現在も信号処理の基礎を成す重要な技術として位置付けられ,幅広い分野において用いられている.今後も信号処理は多方面にわたって発展し続けると思われるが,ディジタルフィルタが離散フーリエ変換とともに最も重要な信号処理手法であることは,将来においても変わらないであろう(1).したがって,ディジタルフィルタに関する知識を身に付けることは,情報通信システムの研究及び開発におけるあらゆる場面において,今後も大いに役に立つと言える.
よく知られているように,ディジタルフィルタの性能は,その「作り方」に大きく左右される.そのため,前述の「ディジタルフィルタに関する知識」とは,「『良い』ディジタルフィルタの『作り方』をどれほど知っているか」と言い換えられる.「作り方」の基本的な内容については,ディジタルフィルタに関する数多くの教科書にて平易に説明されており,それゆえに理解も難しいことではないが,「良い」ディジタルフィルタの「作り方」については専門的な知識を必要とするため,教科書にて取り上げられることはまれである.それどころか近年の多くの教科書では,信号処理と関わる分野が広くなったことによって,以前と比べ専門的な内容が削除される傾向にあり,「良い」ディジタルフィルタをどのようにして作るかを知るための機会が少なくなってきているように感じられる.
このような背景から,本稿では「良い」ディジタルフィルタの作り方について,状態空間表現のアプローチに基づいて解説する.ディジタルフィルタの「良さ」は様々な観点から評価されるが(2),本稿では,ディジタルフィルタの精度に注目した「良い」ディジタルフィルタの作り方について述べる.なお本稿で議論する「精度」とは,ディジタルフィルタを有限語長すなわち有限のビット長のプロセッサへ実装した際に生ずる特性劣化をどれだけ小さくできるか,を意味する.また,ディジタルフィルタの精度に関する問題はFIRフィルタよりもIIRフィルタにて顕著となるため,本稿ではIIRフィルタを対象として議論する.
状態空間表現を導入する前に,まず,ディジタルフィルタの「作り方」について簡単に述べる.ディジタルフィルタの「作り方」は,図1に示される四つの手順から成る(2),(3).本稿ではこれらの手順のうち,実現(合成)に焦点を当てる.この手順は,近似(設計)の手順によって得られた伝達関数に対応するフィルタ構造を決定することである.
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