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デザインイノベーション――専門や業種を超えた課題解決に向けて――
小特集 2.
【大学】
大学におけるデザイン学教育プログラム
Education Programs for Design Studies in Universities
abstract
大学においてデザイン学の教育を行う背景や動向と,カリキュラムの設計理念について述べる.デザイン学は,情報学,機械工学,建築学,経営学,心理学など,既に確立された多くの専門領域に関わる.このため,専門を同じくする教員が集まり学部や研究科を構成している大学にとって,デザイン学の教育プログラムの実装は容易ではなく,各国で様々に試みられている段階である.そこで,デザイン学の教育に関して一般論を述べた上で,京都大学デザインスクールを含む国内外の試みを紹介する.
キーワード:デザイン学,デザイン思考,デザインワークショップ,分野融合,産官学連携
国際社会は温暖化,災害,エネルギー,食など複合的な問題の解決を求めている.また,我が国では2011年の東日本大震災を機に,被災地のみならず,将来被災する可能性のある地域を含め,都市やコミュニティの再設計の必要性が認識されている.こうした複合的な問題は,一つの専門領域で解くことはできない.異なる領域の専門家が協働して,社会のシステムやアーキテクチャをデザインすることが必要である.
デザイン概念の進化はいつ始まったのだろう.デザインを問題解決と捉え始めたのは,1960年代と思われる.経済学,意思決定論,人工知能に大きな業績を残したサイモン(H.A. Simon)は,次のように述べている(1).
「人間の行動の複雑さの大部分は,環境からあるいは優れたデザインを探索する努力から生じてくることを述べてきた.もしも私の主張が正しいとするならば,技術教育に関する専門的な一分野としてのみならず,全ての教養人の中心的な学問の一つとして,人間の固有の研究領域はデザインの科学にほかならない.」
人間の複雑な振舞いを理解しようとすれば,複雑な環境の中で,人間が行う探索的な活動を理解する必要がある.同じ頃,京都大学の梅棹忠夫は「情報産業社会におけるデザイナー」と題する講演で以下のように述べている(2).
「物質,材料そのものを開発する手段は非常に発展した.エネルギーも十分満ち足りるほどでてきた.ただ,一番の問題は,それをどう組み合わせるかというデザインの問題だ.情報産業時代における設計人あるいはデザイナーという存在は,産業の肝心のところを全部にぎっているものである,そういうことになるのではないでしょうか.」
大学に大形計算機センターが設置された頃に,情報産業の向かう先にデザイン産業があると指摘した先見性に驚かされる.それから40年もの間,情報学の研究者はデザインを論じてきただろうか.情報学を支える技術性能は,ムーアの法則に従って倍々に向上した.研究者たちは新規技術の開発に夢中になった.しかし,その間に,地球規模の制約と,技術・文化・経済・政治の連関が強まり,最適な解を求めるのは容易なことではなくなった.例えば,原子力発電を止めれば化石燃料の消費が増える.バイオエタノールが増産されれば穀物が高騰する.社会のシステムやアーキテクチャのデザインは,複雑に関係し合うネットワークの制御問題となり,単純な最適化問題ではなくなった.新しい理論や手法を考案しその適用を試みなければならない.
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