巻頭言 変化と進化

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.100 No.8 (2017/8) 目次へ

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 電子情報通信学会の創立100周年にあたる記念すべき年に総務理事という大役を仰せつかり,この1年は,通常の総務理事業務(結構な仕事量です!)に加え,100周年記念行事の準備(決めること&やることが一杯!)を進めつつ,ずっと「本会のあるべき姿とは何か?!(世の中は変わったけど学会は?)」を考え続けてまいりました.

 本会は1917年に「電信電話学会」として産声を上げました.本会創立時の利根川会長の就任演説が会誌5月号に掲載されておりましたので,読まれた方も多いのではないかと思いますが,利根川会長は「研究を怠ると,必ず世間の進歩に遅れる.特に,我々の専門分野においては,その感が強い.研究は必ず学理的及び実行的の両方面から行わなければならない.」と述べられています.とても100年前の御発言とは思えぬような,現在にもそのまま通用する内容です.本会名称は,その後,1937年(創立20周年)には「電気通信学会」,1967年(創立50周年)には「電子通信学会」,1987年(創立70周年)には現在の「電子情報通信学会」に改められました.

 それから30年,学会名称は変わっておりませんが,ICT技術は著しい発達を遂げ,通信分野を取り巻く状況は大きく変わりました.長らく続いた電話時代と初期のデータ通信時代には,“つながる”こと自体に大きな価値があり,帯域を太くし,処理性能を上げるなど,通信そのものの性能向上こそが最重要課題でした.その後,インターネットやモバイル通信が世の中に浸透し,“いつでもどこでもつながる”ことが当たり前になってきたことは,皆さん,日々の生活の中で実感されているところかと思います.また,近年の深層学習の登場は,大量データから新たな価値を創出するデータオリエンテッドな世界を加速しています.このような状況下において,ICT技術を様々な分野に活用しつつ,あらゆるシーンで発生する大量データから新たな価値を創出するためのエコシステムをどう構築するかが,大きな課題となっています.

 ここで,学会の置かれた状況を振り返ってみますと,従来,ひたすら性能向上に注力していた時代には,同じ分野を専門にしている者同士が,研究領域ど真ん中の研究テーマについて切磋琢磨する場として,学会が存在してきました.しかしながら,つながる先にある,新たな価値創出を目指すようになった今,それだけでよいのでしょうか.私は,これまでの研究生活において,異業種や異文化の方々と数多くの共同検討をしてまいりました.いずれの場面においても,各業界では当たり前の専門用語だったり,共通認識となっている文化背景だったりが,初めのうちは正直よく分からず,「この人たちは一体何を言っているのだろう」と戸惑うばかりでした.ところが,侃々諤々の議論を続けるうちに,お互いの言葉を理解し,アイディアに触発され,結果として面白い成果につながることが多々ありました.本会に求められているのは,このような他分野の方々が抱える課題や夢と,本会が有する技術とのマッチングや,セレンディピティの着想を可能とする環境提供なのではないかと考えています.他分野の方々と新たな価値を生み出すワクワク感を共有し,学際領域の研究を活性化することができれば,本会は様々な分野を結び付ける触媒としての新たな役割を担えるのではないでしょうか.100年前に利根川会長が言われた研究スタンスを進化させ,「専門性を高めること」と「周辺研究でのセレンディピティ」の両輪を促進していけるよう,あと1年,学会役員の一員として取り組んでいきたいと思います.


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