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「情報社会」がごく一般的に使われる言葉となり,産業,文化,日常生活に至るまで,社会の様々な場面に情報技術が浸透し,単なる利便化にとどまらず,その在り方にまで大きな変化をもたらしている.実際,身近なところで本会においても,論文誌や技報など紙媒体の電子化が進み,利便性の向上とともに,学会の運営に想定以上の様々な影響を与えている.私の担当する財務では,紙媒体販売が大きな割合を占めていた収益モデルの見直しが迫られており,ほかにも,維持員・会員サービスの在り方や,図書館との関係など,見直しが必要な課題が多数存在し,本会の将来的な全体像を見据えての改革が望まれる.まさに,「電子情報通信技術」の恩恵,影響力の大きさを「身をもって知る」である.
言うまでもなく,こうした情報技術導入による効果の大きさは,社会全般,また,情報通信以外の研究分野でも,広く認められている.「農業とIT」「医療とIT」「交通とIT」など多数の境界領域が生まれる中,当初は,情報通信技術を「道具」として,またはインフラとして活用しようとする考え方・関係性が多かった.しかし,次第に,バイオインフォマティクス,マテリアルズインフォマティクスの言葉が表すように,その関係性が融合と呼べるほど密接なものとなり,更にここ何年か,より深い融合にしようという動きが目立ってきた.IoT(Internet of Things)もそうした有機的な融合の一つの表れとも取れる.情報通信機器だけでなく,全ての物が世に生み出される最初の段階からネットワークでつながることを前提とした情報通信の視点を考慮して設計されるのであるから.
異なる研究分野との融合の例として,JSTのCREST・さきがけ複合領域「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用(情報計測)」は,ナノテク・材料分野からの研究総括,情報分野からの副研究総括ペアの先導で,計測後のデータ解析だけでなく,そもそもの計測技術(機器やデータ取得法)から計測研究者と情報研究者の密な連携をもって設計し,革新的な計測につなげることを目指している.こうした根本からの融合を目指す連携は,「DL(Deep Learning)に代表されるAI(人工知能)」や「ビッグデータ活用」のキーワードとともにより広がっている.例えば,ロボット分野でもしかりで,一例として,DLの活用でこれまでのアプローチでは困難であった任意の物体の自動ハンドリングの実現性が一気に高まり,この7月名古屋で開催されたARC(Amazon Robotics challenge,元Picking Challenge)コンテストへの世界的な関心に代表されるように注目を集めている.また,経済産業省が,我が国の産業が目指す姿(コンセプト)としてこの3月に打ち出した「Connected Industries」では,各工場のロボットが収集したデータや学習で獲得した技能を,ネットワークを介してクラウドデータベース上に蓄積し,そこでAI技術を駆使して高階層の学習を行い,得られた技能を各工場で再利用する,という構想も練られている.
このように他分野との境界領域,いやむしろ呼び方を変え,融合領域は無限に広がっている.その領域を本会がどのように取り込んで発展していくのか,逆にスリム化するのか,目指す未来の学会の在り方を,本会単体だけでなく,広く社会,学術領域全体の中で捉える必要がある.例えば,維持員や会員数の減少の問題も,現行会員の減少を止めるとばかり考えず,より広い母数から新しい仲間の開拓を図ることも大切かと思う.そのときの,電子情報通信学会の魅力は何か,そのためにどのような施策が必要なのか,大きな視点で一緒に考えていきたい.
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