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「Society5.0」「データ駆動型社会」「ディジタルトランスフォーメーション」.最近の日本の成長戦略を語る上で欠かさず用いられているキーワードである.AI,IoT,ビッグデータ,ロボットなどの第四次産業革命技術の進歩と実装によって様々な社会課題の解決を図り,新たな価値創造をもたらす機会が到来すると言われている.
総務省が毎年刊行している「情報通信白書」によれば2016年の情報通信産業の市場規模は全産業の中でも最大であり,国内総生産(GDP)は商業,不動産に次ぐ規模と位置付けられている.本会が所掌する情報通信技術(以下,ICT)は正に未来を形作る中核的存在であり,これまでにも増して社会活動や産業の基盤としての影響力を発揮し,日々の生活の隅々に染み込んでいくことになるであろう.
こうした機運は2000年前後にブームになった「ユビキタス社会」「ユビキタスコンピューティング」というコンセプトと重なる.当時,夢物語のように描かれた未来像がコンピュータパワーの増大,様々なセンサデバイス,無線を中心とした通信手段の多様化をはじめ,クラウドサービスや機械学習,深層学習といった領域まで含めた各技術の進展により,いよいよ現実のものになってきたという印象を持つ.
新技術とその周辺にある従来技術の組合せにより新しい価値が創造され,新しいサービスとして社会に普及・浸透し始めている.かつそれまでICTとは全く縁がなかった分野も含め,あらゆる分野を巻き込んだ形で動き出していることは注目すべきである.2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」の達成に向けたICTの関与,貢献も様々な分野から期待されている.
かつての高度化・高機能化といった単一技術としての性能向上を目指した評価尺度は,ネットワークの先につながる対象に応じて,様々な技術やサービスを巧みに組み合わせることで受け手のニーズにきめ細かく応え,快適で便利,かつ新しい体験や経験を提供するユーザエクスペリエンスの向上に移ってきている.「もの」から「こと」へ,「所有」から「共有・共感」へという価値観の変化の予兆がうかがえる.
ICT分野に身を置く我々にも,あらゆる技術分野や産業・社会と向き合い,それらを取り込み融合させ,新たな価値を連鎖・創造し,発信していくといった社会をデザインする知性と感性が要求される.
未来は予想がつかない.AIが人類を凌駕するシンギュラリティが2045年に到来すると言われる.小学生の65%は今ない職業に就くと言われる.誰もが容易に想像できない新たな価値を生み出すために,あらゆる産業や分野を融合させ,化学反応の連鎖を引き起こす「触媒」としての役割がICTには期待されているのではないかと思う.
ICTの進展と様々な分野との融合は,我々がまだ見ぬ新次元の体験価値に導く可能性を無限に秘めている.未来社会においてICTは主役か脇役か.それは見る視点によって分かれるところであるが,キャスティングボートを握っていることは間違いない.
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