巻頭言 研究教育環境に対する思い

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Vol.101 No.5 (2018/5) 目次へ

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 昨年の7月と今年の3月に,シンガポールのNUS(National University of Singapore)のKent ValeとNTU(Nanyang Technical University)のNEC(Nanyang Execute Center)に滞在する機会を得た.Kent Valeは教職員及び訪問者用の高層マンション3棟であり,家族構成により1LDKから3LDKの部屋が用意されている.また,NECは訪問者のためのホテル形式の170の部屋とコンファレンスルームが併設されている.両方の施設共に,訪問者にはベッドメーキング,掃除,朝食などのサービスがあり,フロントでは常駐の職員に対応してもらえる.NUSとNTUの広大なキャンパスと,設備の良い建物,キャンパス内移動のための無料シャトルバス,学生のためのすばらしい宿舎など,日本の大学の研究教育環境との大きな格差を目の当たりにすると,NUSがアジア大学ランキングで1位,NTUが5位であることにも十分に納得できる.

 これに対して日本の国立大学は,2004年に法人化された後,国から配分される運営費交付金が現在までに11%以上削減され,研究教育環境の悪化が続いている.大学として新たに大きな予算を獲得し,組織を充実させるためには,分野横断や文理学融合,あるいは教育組織と研究組織の分離など,従来とは異なる組織を作ることが要求される.そのため,各大学で異なった複雑な組織が新たに作られ,それらの事務量や雑務が増える一方で,基盤として重要である従来の研究教育組織の弱体化が続いている.平成30年度からは,卓越大学院プログラムが始まるが,自分で「卓越」と名乗る組織を作るより,何も名乗らなくても海外の研究者から「卓越」と思われる研究教育環境を作ってほしいものである.

 大学における研究教育環境の劣化が続く中,継続的に安定した本会組織は,研究者にとって心強い研究環境の一つとなっている.これらの環境は,本会の役員や委員をはじめとする会員の様々なボランティア活動に支えられており,頭が下がる思いである.しかし,1994年に本会が4ソサイエティと1グループの体制になって以来,2014年にNOLTAソサイエティが発足した以外には,ソサイエティが増えていない.IEEEのソサイエティ数38に比べてはるかに少ない.本会には多数の研究専門委員会があり,IEEEのソサイエティと同等の活動をしているという意見も聞かれるが,IEEEのソサイエティでも,その中に多数のTechnical Committeeを作り,より柔軟な研究グループ活動が行われている.本会が,世界から「卓越した学会」とみなされるためにも,ソサイエティを柔軟に増やしていける体制を是非作ってほしいものである.


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