小特集 2. 化合物半導体を用いたテラヘルツモノリシック集積回路技術

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テラヘルツデバイスの新潮流

小特集 2.

化合物半導体を用いたテラヘルツモノリシック集積回路技術

Terahertz Monolithic Integrated Circuits in Compound Semiconductor

川野陽一 濱田裕史

川野陽一 (株)富士通研究所デバイス&マテリアル研究所

濱田裕史 正員 日本電信電話株式会社NTT先端集積デバイス研究所

Yoichi KAWANO, Nonmember (Device and Material Laboratory, Fujitsu Laboratories Ltd., Atsugi-shi, 243-0197 Japan) and Hiroshi HAMADA, Member (NTT Device Technology Laboratories, NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION, Atsugi-shi, 243-0198 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.6 pp.546-553 2018年6月

©電子情報通信学会2018

abstract

 テラヘルツギャップのために埋もれている新しいセンシング技術や大容量通信の可能性を探索し,産業に変えてゆくためには,使いやすく,低価格,かつ小形な装置が必要となる.その目的のために,電子デバイス側からテラヘルツギャップを埋めていく意義がある.電子デバイス領域には,材料,デバイス,回路設計環境や実装技術にわたる幅広い分野に産業の裾野が広がっており,新規技術を民生展開しやすい環境が整っている.本稿では,テラヘルツ帯を開拓するための基本となる化合物半導体によるテラヘルツ帯増幅器技術に関して述べる.

キーワード:InP,テラヘルツ,MMIC,増幅器,HEMT

1.は じ め に

1.1 テラヘルツ帯増幅器の開発背景

 20世紀初頭から始まったワイヤレス技術は,キロヘルツ(kHz)~メガヘルツ(MHz)帯を使用したラジオ放送,衛星通信,更にはマイクロ波帯(GHz)を使用したモバイル機器へと発展してきた.これらの発展は,主として,使用周波数を高めワイヤレス機器に新たな機能を付加することで成り立ってきた.例えば,見る・聞くだけの機能を有するラジオ・テレビに対して,セルラ通信機やワイヤレスLANは双方向通信の機能を付加することで爆発的に普及し,我々の生活の利便性向上に貢献してきた.

 近年,ワイヤレス機器で使用されてきたマイクロ波・ミリ波の更なる高周波である“テラヘルツ”帯(300GHz~3THz)が注目されている.テラヘルツは光と電波の特徴を併せ持つため,高い直進性と壁などの物体を突き抜ける透過性,波長の短さに起因した高分解能性を有する(1).例えば,セキュリティ関係では,高分解能性を利用して,鞄や被服に隠したナイフや拳銃を検知することができ,従来の金属探知機では検知できなかったセラミックナイフすら判別可能になる(2).更に最も注目すべき特徴は,テラヘルツ帯がN2Oなどの無機化合物からたん白質などの高分子が持つ物質固有の吸収スペクトル(指紋スペクトルと呼ぶ)を含むことである(3),(4).これにより,医療関係では,がん細胞と正常細胞の透過率の違いを利用してがん細胞を識別することもできる.食品関係では,古い野菜や果物と新しいものとを区別することもできる.セキュリティ関係では,封筒などを透過して内部に隠された麻薬や覚せい剤を検知できることも示されている(5),(6).また,競合する無線帯が隣接しないことから,超広帯域を使用した大容量無線なども有用なアプリケーションである.このような状況にあって,テラヘルツ応用の普及の鍵となるのは,やはり装置の小形・低コスト化である.電子デバイスを基盤とするワイヤレス機器は,民生利用によってたたき上げられてきた技術であり,小形・低コスト化のための基盤技術が豊富にある.地の利を生かし,テラヘルツ応用を加速していくためにも,テラヘルツ帯で機能するMMIC技術が必須となる.本稿では,化合物半導体,特に現在最も高周波動作が可能であるInP系デバイスを基盤としたテラヘルツ帯MIC(Monolithic Integrated Circuit)の最新動向,及び設計技術に関して述べる.


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