小特集 5. テラヘルツ差周波量子カスケードレーザ光源の現状と展望

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.101 No.6 (2018/6) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


テラヘルツデバイスの新潮流

小特集 5.

テラヘルツ差周波量子カスケードレーザ光源の現状と展望

Terahertz Difference-frequency Quantum Cascade Laser Sources: Current Status and Future Perspectives

藤田和上

藤田和上 浜松ホトニクス株式会社中央研究所

Kazuue FUJITA, Nonmember (Central Research Laboratory, Hamamatsu Photonics K.K., Hamamatsu-shi, 434-8601 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.6 pp.567-573 2018年6月

©電子情報通信学会2018

abstract

 量子カスケードレーザ(QCL)はサブバンド間遷移を用いた中赤外~テラヘルツ(THz)領域の半導体レーザである.QCLのカバーするスペクトル範囲とデバイス特性は大きく向上しているが,THz帯での室温動作はいまだ達成されていない.このような状況で,新たなTHz発生の手段として,2波長発振する中赤外QCL内部での差周波発生を用いた,THz差周波発生QCL(THz DFG-QCL)が提案されている.この光源は2THz以上での唯一のモノリシック半導体THz光源であり,劇的に特性向上が進んでいる.本稿ではTHz DFG-QCLの概要とこれまでの研究開発の進展について報告するとともに,今後の展望について述べる.

キーワード:テラヘルツ,量子カスケードレーザ,差周波発生,中赤外

1.ま え が き

 量子カスケードレーザ(QCL)は量子井戸構造内のサブバンド間遷移を用いた中赤外(MIR)~テラヘルツ(THz)領域の半導体レーザである(1),(2).QCLでは,バンド間遷移を用いて電子と正孔の再結合により光を放出する従来の半導体レーザとは異なり,放出するフォトンのエネルギーは活性層内の量子構造を設計することにより決定され,光出力はその活性層のカスケード結合の段数に比例するなどの特徴がある.また,各量子準位における電子の散乱時間など,キャリヤのトランスポートも同様に量子構造内の波動関数の状態に依存しており,これらはある程度デザインすることが可能である.このような量子構造設計の結果,QCLはMIR領域で非常に良好なデバイス特性が得られている.一方,meV単位での量子準位エネルギー位置の精密な設計により,2002年以降,THz領域でもQCLは実現され,最初の発振以降,カバーするスペクトル範囲と最高動作温度は大きく向上し,現在も特性向上が進められている.現状,THz-QCLの発振周波数範囲は1.2~5.4THzに及んでおり(3)(5),これらデバイスから100mWを超えるCW出力と1Wを超えるピーク出力が報告されている(6).一方で,半導体レーザとしての最も求められる性能の一つが室温動作であるが,THz-QCLでは室温動作はいまだ達成されていない.現在,実現されている最高動作温度はパルス動作時で199.5K(7),CW動作では129K(8)である.QCLのTHz-QCLの最高動作温度の推移を図1に示す.THz-QCLの実現直後は動作温度の向上が成されているが,近年はほとんど動作温度の向上が見られていない.

fig_1.png


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録


  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。