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本会選奨規程第20条(電子情報通信分野において,学術,技術,標準化などにおいて特に顕著な貢献が認められ,今後の進歩・発展が期待される)に基づき,下記の2件を選び贈呈した.
低電圧・低消費電力時間分解能型CMOS集積回路技術の開拓とその医療応用への展開
新津葵一君は,2010年慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程を修了した.2010年から,群馬大学大学院工学研究科に助教として着任し,活躍された.2012年から名古屋大学大学院工学研究科に講師として着任し現在に至っている.2015年から,国立研究開発法人科学技術振興機構さきがけ研究者を兼任されている.
同君は,半導体集積回路の低電力・低電圧設計に取り組んだ.電流駆動形の誘導結合チップ間通信の開発に取り組み,電流再利用技術により世界最小電力動作を達成するとともに,三次元システム集積を実現した.低電力かつ低電圧での動作が可能な信号処理技術として時間分解能回路技術の開発に取り組み,世界初の参照クロック不要のジッタ計測技術の開発に成功した.低電力かつ低電圧が可能な二つの技術を生かし,医療分野への展開を図った.具体的には,バイオ発電素子と融合した電力自立バイオセンサ並びに無電解金めっき技術を適用した電流検出形がん細胞検出技術を開発した.
誘導結合通信は,コイル間の誘導結合を用いて通信を行う電流駆動の通信技術である.候補者は電流駆動である点に着眼して電流再利用技術の適用と電源電圧の異なるプロセッサ(1V)とメモリ(1.2V)間通信への適用を行った.また,低電圧動作が期待される時間分解能回路技術において課題となっていたジッタ測定において,統計理論に着眼して被測定クロック同士を比較してジッタ測定を行う自己参照クロック技術を提案し有効性を実証した.時間分解能回路技術と電流駆動の誘導結合通信という低電圧回路技術を,出力電圧の低いバイオ発電と融合することに着眼して,電力自立バイオセンサを実現した.更に,微小電極形成技術として無電解金めっき技術に着眼し,電流検出回路と融合することで集積回路上のがん細胞検出に成功した.現在は,糖尿病医療に貢献すべく電力自立の継続血糖モニタリングへと発展させている.
上述のように,同君の電子情報通信分野への貢献は極めて顕著であるため,本賞を贈呈するにふさわしい.同君の今後の活躍を期待する.
H.265/HEVCの機能拡張に関わる研究・標準化・実用化
河村 圭君は,映像符号化の国際標準方式であるH.265/HEVCを対象に,その応用範囲を飛躍的に高めるための拡張方式の研究・標準化・実用化を推進した.映像符号化方式の応用範囲の拡大は,①レンジ拡張,②スケーラブル拡張,③マルチビュー拡張の三つの側面から行われた.それぞれについて,以下に業績の概要を述べる.
①レンジ拡張について,放送局内及びスタジオでのプロユースに求められる色再現性の確保において,画素表現のビット深度や色差サンプル数を増やす必要がある.これに伴うデータ量の増大を抑制するため,色差チャネル間の予測方式に関わる研究を推進し,色差信号に対して画質を落とすことなく平均で5%のビット削減効果をもたらした.更に国際標準化活動を通じ,H.265/HEVCレンジ拡張方式としての標準規格成立をもたらした.
次に②スケーラブル拡張について,4Kや8Kに代表される超高精細映像の普及に伴い,HDTVも含めた3種類の映像フォーマットが混在する状況となった.その中で,HDTVについてはディジタル放送での映像符号化方式を踏襲し,4K及び8KはHDTVとの差分情報を符号化対象として高能率に圧縮するハイブリッド方式の研究を推進した.ハイブリッド方式は後方互換性と高い符号化性能を両立でき,映像受信機について既存モデルと最新モデルの分け隔てなく,複数映像フォーマットのサービス提供を一元的に可能とする.同君の標準化活動を通じ,そのフレームワークはH.265/HEVCスケーラブル拡張方式に採用された.
最後に③マルチビュー拡張について,スポーツ映像制作をはじめとし,数十台クラスのカメラによるマルチアングル撮影の機会増大を踏まえ,マルチアングル映像を狭帯域で一元管理できる映像符号化技術の研究を行った.実用化研究にターゲットを絞り,H.265/HEVCマルチビュー拡張方式に準拠した8Kマルチアングル映像対応リアルタイムコーデックの開発に世界で初めて成功した.これが起点となり,同君は標準化活動においてマルチビュー拡張方式に関わるコンフォーマンス規格及びサプリメンタルデータの勧告化を主導し,対応受信機の開発・普及を強力に後押しした.
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