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解説
不確実な技術のマネジメント
――AI,IoT,データ利活用技術を例にして――
Management on Technology Uncertainty:
Case Study of Technology Using AI, Big Data and IoT
abstract
新たな技術が社会に受容され実用化がなされる過程においては,技術そのものの優劣以外の要因が,社会の受容性に大きな影響を与えることがある.特に最近の複雑なビジネスエコシステムを舞台に繰り広げられる事業戦略においては,技術の社会受容性を高めるための,様々のビジネスモデル構築や知財,標準化などの戦略が試みられており,技術の産業化の成否に大きな影響を与えている.優れた技術を埋没させることなく,実用化を促し社会において幅広い活用を促進する施策としては,これらの戦略実装に際して,オープンイノベーションのオプションを最大限活用することが考えられる.本稿では特に,AI,IoT,データ利活用技術について,オープンイノベーションのオプションを活用した戦略構築の意義に着目して議論を行った.
キーワード:技術の不確実性,技術経営,知財戦略,オープンイノベーション,AI,IoT,データ利活用
研究開発過程では二つの不確実性に遭遇する.例えばカーボンナノチューブ(Carbon nanotube)は,飯島澄男博士が1991年に見いだした六員環ネットワークが同軸管状になった炭素の同素体であるが,極めて美しく特殊な構造をした物質であることから,その物性についても特殊な性質を発現することが期待されてきた.発見当初から応用を期待されている用途としては,高強度材料,伝導性樹脂,マイクロマシン,CO固定,ナノフィルタなどがあった.そのような用途に展開できるとする根拠は,例えば高強度材料であれば,理論上は宇宙エレベータを建設するのに必要な軽さと強さを持っているとされることである.実際にその後の研究開発の進展によって,その強度も徐々に向上しているが,線材にするための技術開発においてはまだ途上であり,ごく僅かの欠陥によって強度が大幅に低下するなどの問題も明らかになっているとされる.
実用化の可能性があっても,コストや安全性の問題など,多くの条件が整わないと実用化しない.現時点でカーボンナノチューブの産業利用としては,導電性を利用した応用製品として樹脂添加剤やリチウムイオン二次電池の電極の添加剤として,年数百トンの市場規模に育っていると報告されている(1).
これらの過程では,多くの研究開発やマーケティングの活動が行われ,そのための投資が行われてきた.研究開発に多額の投資を行っても実用に至らないケースは少なくない.しかし逆に投資を行わない限り,それぞれの用途に可能性があるかどうかは分からない.そのような実用化可能性のある用途が多数存在している場合,研究開発に従事している者にとっての夢は広がっても,同時に多くの用途に向けた投資を行うことは,実際は困難であるから,用途が単一の場合よりむしろ不確実性は大きくなる.大きな可能性を秘めている技術であっても,それが実際に実用化,商品化するまでには様々な課題がある.その意味で多くの技術は実用化という観点から見ると不確実性が高い.
一方技術課題の存在に起因するものではなく,その技術を受け入れる側の市場に起因する不確実性もしばしば見られる.現在では多くの自動車メーカが積極的な開発に従事し,普及を進めている電気自動車は,そのような技術自身に起因するものとは異なる不確実性が問題になる典型的な例である.
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