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解説
脳神経計算原理の解明を目指した2光子多細胞イメージングの情報技術展開[Ⅰ]
――2光子多細胞カルシウムイメージングの技術的展開――
Technological Development of Two-photon Multicellular Imaging for Understanding Cortical Computation[Ⅰ]:Technical Development of Two-photon Multicellular Calcium Imaging
abstract
膨大な数の神経細胞により成り立つ脳を理解するためには,個々の神経細胞の膜特性やシナプスの性質といったミクロレベルの知見や,脳領域単位のマクロな機能マップに加え,ミクロとマクロをつなぐメゾスケールの現象を読み解く必要がある.神経回路情報処理を理解する上で最もコアな階層であるにもかかわらず,このメゾスコピックスケールの現象がいまだ明らかになっていないのは,生きた動物個体を用いて同時に多数の神経細胞活動を記録し,それを解析する技術が発展途上であったためであると考えられる.本稿では主に近年開発が進んできた2光子顕微鏡による多細胞カルシウムイメージングに焦点を当て,その技術的展開について概説する.この方法は,単一細胞レベルの活動を同時に数千個以上記録できるなど従来法にない利点がある一方で,超短パルスレーザと光学機器,それらの組合せの最適化に幾つもの課題が残されている.大規模画像データの解析や,ハードウェアと光学系の連携に関する課題に関しては第2回で考察する.
キーワード:システム神経科学,顕微鏡,2光子イメージング,脳
1,000億のニューロンとその数千倍の数のシナプスから成り立つ脳を理解するために,これまで脳神経科学者は様々な方法を生み出してきた.この脳神経科学の技術開発の歴史に近年大きな進展があった.そのうちの一つが,本稿で議論する2光子多細胞カルシウムイメージングである(1),(2).この方法を用いることで,現在行動するマウスの大脳活動を同時に数万ニューロン記録することができている(3)~(6).この数はマウスの脳全体から見ればまだまだ1%未満であるし,‘ひと’の脳に比べれば更に小さい割合になるが,本方法による同時記録数の増大は指数関数的である.本稿では同時記録数の増大を可能とした近年の技術的展開と,この方向性で今後どの程度の発展が望めるかにつき,できるだけ平易な形で考察を与える.
最初に述べておくと,脳に存在するニューロンをできるだけ多く同時に記録することによって,脳の理解が深まるだろうか? あるいは脳の理解とはそもそもどのようなものだろうか? そうした本質的な問題はここでは扱わない.脳神経科学においては,技術と方法論の発展が,脳を理解するための座標軸そのものをその都度変えてきた.本稿では,本質的問いへの思考の欲求をできるだけ抑えて,技術的観点に集中する.
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