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研究会が変わる!!
――次の100年に向けて――
Reformation of KENKYUKAI toward Next Century!!
電子情報通信学会の理念に掲げられている学術の発展,産業の興隆並びに人材の育成において,研究会(用語)活動はその理念を実現するためのコア事業の一つとして考えられています(http://www.ieice.org/jpn/about/rinen.html).つまり研究会の活性化は,学会全体の活性化に直結します.しかしながら,正に本会が果たしてきた電子情報通信に関する研究開発の進展に伴い,学会活動,研究会活動においても制度を制定した当時では想定していなかった事象や問題が顕在化しています.それに対応するため,本会では以前から会長の下,学会のあり方ワーキンググループを組織し,様々な観点から検討を重ね,2015年からソサイエティ・グループの研究会の状況を横串で議論するための研究会連絡会を組織し,「研究者目線」を基本にしながら新たな研究会の在り方を問い,各ソサイエティ・グループでも様々な新たな仕組みの導入を開始しました.本稿では,それら現状の取組みをまとめました.
(中野義昭 西山伸彦)
2017年から新たに研究会の考え方,基本ルールとなる研究会規程を制定しました(http://www.ieice.org/jpn/about/kitei/kenkyukaikitei.pdf).「研究者の自由な発想」で学会の理念を具現化する場としての研究会の定義,そして学会はその場と機会の提供を行う役割を持つことを明確化しました.その上で,本会が幅広い分野をカバーし,それぞれの分野でふさわしい研究会の仕組みは異なることから,「学会全体としては最低限の共通ルールしか設けず,ソサイエティ・グループの責任の下,詳細なルールを定める」ことにしました.これにより,各分野に合わせた研究会活動を可能にしています.
主な従来との変更点を下記に列挙しますと,
・時限研専(用語)を廃止し,特別研専と改称しました.意図は,通常の研専,特別研専「共に」,時代の要請により要不要は都度判断し,研専の新陳代謝を活発にすることにあります.
・第一種研究会の開催回数,開催形式(参加費の有無を含む),資料の発行,収入の取扱いは,ソサイエティ・グループが承認または定めることにしました.
・第一種研究会で発行される技報(用語)は,紙媒体若しくは電子媒体で発行できることにしました.
・特別研専もソサイエティ・グループが承認すれば,第一種研究会を開催できることにしました.これにより研究会間での共催・連催・併催の仕組みがシンプルにできます.
また,従来から仕組みとして存在していたものの,活用されていない第三種研究会(新分野,横断分野を各ソサイエティ・グループの運営の下議論する場)も今後利用頂きたいと思います.
次章からは,これを受けた各取組みを概説します.
(中野義昭 西山伸彦)
基礎・境界ソサイエティ(ESS)は対象とする研究分野が幅広く,通信ソサイエティに近い研専もあれば,情報・システムソサイエティに近い研専もあります.そのため,新たな研究会活動を模索し推進しようとする際には,慎重に進める必要があると考えています.
その一例として,第一種研究会の開催形式として参加費制も可能となることから,参加費制が良いか,これまでどおりの技報の予約販売によるものが良いかの議論が挙げられます.これまでどおりの予約販売を柱にした場合には,近年の技報売上げの減少から考えて,ある程度の技報価格の値上げが想定されます.最初の議論では,技報の値段が例えば2倍になっても賛同が得られれば現状のシステムを残すことも一案である,との意見もありました.そこで,研究会参加者を対象に半年間アンケートを取り,どちらの形式が良いか,また,もし現状のシステムのままなら,どの程度であれば技報の値上げを許容できるかを項目の一つに加えました.
結果として,参加費制であれ,技報販売であれ,研究会に参加する際に必要な金額が,現状より増えるのは好ましくない,との意見が大方を占めました.技報販売では値上げが想定されるため,参加費制に向けて議論を進める方向となりました.参加費制と深く関連するのが,技報電子化であり,研究会年間登録制度及び技報アーカイブとなります.そこで,ESSはNOLTAソサイエティとともに,近い将来の技報の完全電子化実現を念頭に置き,幾つかの研専の協力の下,2018年度からトライアルを開始します.他ソサイエティと比べると電子化は後発ということもあり,先行するソサイエティの良い点を踏襲するとともに,対象とする研究分野が広いという基礎・境界特有の事情を考慮しながら,制度の設計を行っています.他のソサイエティの研究分野に近い研専もあるため,ソサイエティ全体として納得する形での実現を目指しました.また,他ソサイエティに属する研専と共催となる研究会や他学会との連催となる研究会では,トライアル開始直後には混乱が生じる可能性もありますが,1年間実際にトライアルを行うことにより明らかになった問題点を適切に修正しながら,会員の皆様にとってより良い仕組みを作っていきたいと考えています.2019年度には,研究会年間登録制度及び技報アーカイブを開始する予定です.開始に先立ち,2018年の秋には,実施の大枠は確定させ,会員の皆様に早めの周知を行う予定です.更に,2020年度には,技報アーカイブの有料化及び冊子体の完全廃止を計画しています.電子化を実施することによる影響を収益面も含めて,しっかり注視するとともに,他ソサイエティと密に連携を取り,技報電子化を進めていく予定です.
(田村 裕)
NOLTAソサイエティ(NLS)では,技報の完全電子化に向けて研究会運営のトライアルを傘下の2研専(非線形問題研専(NLP),複雑コミュニケーションサイエンス研専(CCS))が2018年度に主催する全ての第一種研究会において実施することを2017年9月のソサイエティ運営委員会において決定しました.
ここでは,本稿の執筆時点(2018年4月)で決まっている上記2研究会のトライアル期間の運用方法について以下に記します.
・技報冊子体の扱い
技報年間予約者に対しては,これまでどおり,研究会会場で技報冊子体をお渡しします.また,研究会に参加されない方には後日郵送致します.
技報冊子体の研究会会場での発表者への配布及び聴講者への販売は行いません.
・研究会における発表参加費の導入
研究会において発表される方には,従来の別刷購入に代わって,発表参加費をお支払い頂きます.この発表参加費は,会員,非会員,一般,学生の区別なく,3,000円(税別)の定額と致します.また,発表参加費のお支払いは発表申込時に行って頂きます.発表参加費をお支払い頂いた方は,研究会開催の1週間前から1か月後まで,技報の電子媒体(PDF)を「技報オンラインシステム」からダウンロードすることができます.
・研究会における聴講参加費の導入
研究会を聴講される方には,聴講参加費をお支払い頂きます.聴講参加費の支払い方法は,オンラインによる事前申込み,若しくは当日現金払いがお選び頂けます.事前参加申込み頂くと,研究会開催の1週間前から1か月後まで,技報電子媒体が「技報オンラインシステム」からダウンロードができます.(当日払いの方は当日から1か月後まで.)
なお,技報年間購読者と発表参加費をお支払い済みの方は,聴講参加費のお支払いは不要です.また,本会学生員は会場で会員証を提示することにより聴講参加費のお支払いは不要です.
聴講参加費は開催規模によって変動致します.会員の方が事前申込みをした場合,2,000円(1日),3,000円(2日)を基本としますが,件数により料金が変わるので,実際の聴講参加費はオンラインプログラムで確認して下さい.
非会員や当日現金払いの場合の聴講参加費,本トライアルの詳細については,下記のサイトを御参照下さい.
「NLS技術研究報告完全電子化研究会トライアル実施について」(http://www.ieice.org/nolta/news_letter/gihou-trial-nls2018.html)
(安達雅春)
通信ソサイエティ(CS)には,21研専,5特別研専があり,それぞれ研究会を開催しています.研専では延べ1,000名を超える方々が,委員長,副委員長,幹事,幹事補佐及び専門委員として研究会活動を支えています.研究会では毎年約3,000件(共催の他ソサイエティ,他学会分を含む)の発表が行われ,非常に活発な活動となっています.しかしながら,研究会活動の収入源である技報の売上(年間予約)はここ25年毎年減少を続けており,このままでは,将来的に研究会の運営が困難となるのでCSでは大きく制度を変えることにしました.
今回の制度変更の柱は,技報は冊子体の発行をやめ電子版のみとする,研究会の参加を有料とする,の2点です.技報を電子版だけにするのは,多くの学会の出版物が電子版だけになっていること,利用者の利便性も向上すること,更には印刷をやめることによる大幅なコスト削減が図れるためです.歴史ある冊子体を廃止することについては,これまで長期間議論があり様々な御意見がありましたが,研究会制度を今後も継続するための改革として,今回大きな決断をしました.また研究会はこれまで参加費無料とされてきましたが,参加される方にも研究会を支えて頂き,長くこの活動が続けられるようにと有料にさせて頂くことにしました.
研専運営会議での議論を重ねた結果,新しい制度は次のようになりました.
(1)研究会会場での冊子体技報の配布はありません.代わりに「技報オンサイトビュー」を通じて電子版をダウンロードして頂きます.
(2)研究会を聴講するためには,聴講参加費が必要となります.聴講参加費が割引となる年間登録制度を提供していますので是非御利用下さい.
(3)発表される方には発表参加費を御負担頂きます.
(4)技報冊子体の発行はありません.代わりに電子版の「技報アーカイブ」サービスを提供します.詳しくは(http://www.ieice.org/jpn/books/giho_archive.html)を御覧下さい.
このような運営改革を行ったのは,本会の活動の大きな柱である研究会を今後も継続し,更に活性化するためです.魅力ある研究会とするべく,ワークショップ,チュートリアル,コンテスト等の併催,研専/ソサイエティ/学会横断の研究会で異なるコミュニティの方との交流推進,海外開催による国際化など,各研専で工夫して様々な活動を行っています.活気ある研究会には多くの皆様の参加が必要です.CSの研究会一覧(http://www.ieice.org/cs/jpn/techg/list.html)から気になる分野の研究会の開催予定を確認の上,是非御参加下さい.
(石原智宏)
エレクトロニクスソサイエティ(ES)改革の一環として,2016年度から22の研専・特別研専を互いに関連する三つの領域委員会に再編成し(http://www.ieice.org/es/jpn/aboutus/organization.php)横断的な議論のための領域連携会議の運用を開始しました.これにより,各研専の企画立案をより活性化するとともに,迅速な意思決定が図れる仕組みにしました.また,本会全体の研究会改革にも対応して新たな運営方法・技報の電子化への検討も開始しています.技報の電子化については,2017年度は5の研専でトライアル実施を行いました.2018年度は全ての研専で技報の電子化を実施する予定であります.
その詳細については,ESのHP(https://www.ieice.org/es/jpn/e-gihou-2018es/e-gihou-2018es.htm)を御参照下さい.また,会員各位にとって魅力ある研究会を目指し,三つの領域をまたがる研究会の実施や他のソサイエティとの共同開催を進めていきたいと思っていますので,参加をお願いします.更に,国際会議の活性化,著作権及び財務の課題解決のための支援,国内外の他学会との新たな協力関係の構築にも注力しようとしています.国際セクションとの共催などによりES活動のグローバルな認知を拡大させるとともに,本会の魅力を通して国際的な会員増強を進めていきたいと考えています.
このように,制度や仕組みを構築していますが,研究会の活性化は会員皆様方の積極的な参加(投稿,聴講)により推進されるものです.研究会は,それぞれの分野で活動している研究者にとって自分たちの研究成果を発表し,また議論を行い,その議論を基に更に前進するというポジティブフィードバックの機能を有し,当該分野の技術進展や研究者育成に少なからず貢献してきたと信じています.また,関連分野の発表を聴講することで自分たちの研究の幅/深さを増すにも良い機会となるものと信じております.権威のある国際学会で発表したような内容が日本で更に詳細に聴講できます.
上述したように徐々にではありますが,会員目線で変革をしている研究会に,多くの皆様,とりわけ今後の日本/世界の技術を支える大きな可能性のある若手研究者や学生諸君の積極的な参加をお願いします.
(粕川秋彦)
情報・システムソサイエティ(ISS)には,23研専,5特別研専があり,2018年度も全ての研専が継続して活動を行う予定です.2017年度に開催された第一種研究会開催総数は132回(前年比99%),発表総件数は2,666件(前年比99%)でした.
研究に対する学術的評価の考え方が急速に変化していることに伴い,研究会での発表や発表の際に発行される技報の学術的評価に関する意義が変わってしまったために,多くの研究会では発表件数が減る傾向です.その対策の一つとして,技報が既発表論文とみなされることがないようにするために,ISSでは技報フォーマットの見直しを実施し,著者が自由に原稿に記載する内容を決めることができるようにしました.また,一部の研究会では,研究成果の発表の場という従来の枠を外し,トップ国際会議で発表された研究内容を有志の研究者が集まって解説・批評するようなセッションや,研究のやり方自体について議論するセッションを設けるなど,参加者にとっての価値を最大化できる研究会運営について,参加者全員で議論するような試みを行っています.
技報の電子化については,2017年度はトライアル期間として,紙の冊子体の出版は継続した状態で,研究会開催時には冊子の配布は行わず電子ファイル(PDF)のダウンロードのみ可能とする運用を幾つかの研究会で実施しました.従来,学会事務局から研究会会場担当者へ送られていた大量の冊子体が入った箱の送付が,電子ファイルダウンロードに必要な情報の記入されたクーポン券の入った封筒の送付に置き換わり,会場での運営作業が省力化され,参加者も事前・若しくは当日にインターネットで技報電子ファイルを受け取ることができ,利便性が増したと考えています.
完全電子化後の運用方法について最も深く議論したのが,その課金形態です.従来型では,紙冊子の技報原稿の入手に対する対価をお支払い頂き,研究会運営や技報発行の費用を御負担頂く考え方でした.ISSでは,技報の電子化に伴い,研究会参加者は全員技報電子データのダウンロード権を付与し,研究会そのものに参加して情報収集できることに対する対価をお支払い頂くという考え方に変更し,ISSの研究会の参加者全員から,研究発表の有無にかかわらず,「聴講参加費」(研究会参加の都度の支払い)か,研究会に年間を通じて参加できる「研究会年間登録費」(年に1回の支払い)を御負担頂くこととしました.一方,これまで研究室・部署・組織・機関といった複数名の利用者グループ単位で技報を閲覧することを目的に年間予約をされていた場合や過去から現在までの全てのISS研究会の技報電子ファイルをダウンロードしたい方向けのサービスとして,「技報アーカイブ(ISS)」もスタートしました.料金体系やサービス内容は「技報アーカイブ(CS)」に準じます.
(斎藤英雄)
ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)では2018年度に,4研専のうちヒューマンコミュニケーション基礎研専(HCS)とメディアエクスペリエンス・バーチャル環境基礎研専(MVE)の二つの研究会で技報電子化/参加費制を試行的に開始しました.HCGの研究会は他学会との連携や情報通信以外の分野の参加者が多く,今回の研究会規程の制定により参加者が減らないよう慎重さが求められました.心理学系の参加者にとっては参加費が負担になるという意見も強く,他のソサイエティに比べて参加費の価格設定を一部低くしました.価格については1年間の試行期間の様子を見ながら分析,見直しを図ります.
HCGの特徴の一つは自由度です.他学会との連携も含め,新しいことに挑戦しやすい自由な雰囲気の維持に心掛けています.学会や組織の継続的運営には統制,効率,利益が大切ですが,自由な活動を支援することも大切だと考えています.HCGでは第二種研究会や第三種研究会の開催も多く,第一種研究会を合同で開催することも少なくありません.昨年2月に制定された研究会規程が,研専と特別研専の活動の垣根を低くしたことは,HCGにとって大変歓迎すべきことです.他のソサイエティは研究会の数が多く,規程の統一的運用による効率が求められるでしょうが,HCGでは効率より自由度を優先した研究会運営も可能ではないかと考えています.これについては2019年度以降の本格運用に向けて引き続き議論をしていきます.
HCGの研究分野の多くは「人」に着目し中心にすることを前提にしています.したがってHCGの研究はサービスに近く,様々な周辺研究分野が関連します.複雑さと多様性が求められるこれからの情報通信技術では,基盤技術の深度を追求すると同時に,他分野/業界の人々と積極的に交流する中で新しいものの見方や価値を発見/創出し,技術やサービスに昇華させることも大切です.サービスを念頭に置いた研究会活動として,食メディア特別研専(CEA)や福祉情報工学研専(WIT)が挙げられます.HCGではこのような応用を重視した研究活動も積極的に支援しています.またWITでは,障がい者向けに情報保障を推進しており,HCGもこれを積極的に支援していますが,本来は学会全体として取り組むべきことと考えます.
HCGはこれからもサービスの利用者人,を中心にした研究を推進するための組織として,他ソサイエティの基盤的な分野とも連携しながら,学会の「風穴」としての役割を担っていく所存です.
(井原雅行)
研究会連絡会(2017年度)
中野義昭(副会長)
西山伸彦(研究会連絡会幹事)
田村 裕(基礎・境界ソサイエティ委員)
安達雅春(NOLTAソサイエティ委員)
石原智宏(通信ソサイエティ委員)
粕川秋彦(エレクトロニクスソサイエティ委員)
斎藤英雄(情報・システムソサイエティ委員)
井原雅行(ヒューマンコミュニケーショングループ委員)
■ 用 語 解 説
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