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本会101年目の会計理事として,幾つかの数字とそれらに関する状況を整理してみたい.まず本会の2018年度収支計画について確認しよう.本会の運営予算は年間12億円規模であり,本年度は1,500万円強の黒字を見込んでいる.収入のうち,3.7億は会費・入会金による収入であり,8.2億は事業による収入である.会費依存度は31%と計算される.事業による収入8.2億のうち,4.3億は研究発表会等(大会や国際会議を含む),2.3億は論文誌によるものである.2017年度は創立100周年記念事業など臨時の条件があったので直接比較し難いが本年度の収支構造は過去と大きく異なるものではない.本会は非営利団体なので大きな黒字を出す必要がないとすれば,バランスした収支は健全にも見える.資産があるため,単年度黒字を達成できない場合にも直ちに危機に陥ることはなく投資余力がある.2018年度の支出には学会システムのグランドデザイン実現のための開発費を含めている.
現状は持続可能かとの問いに対して盤石とは言えない.収入に即して言えば,①会員減による会費収入の減少,②オープンアクセスによる購読収入の減少,の課題がある.これらについては会誌7月号に掲載された会長就任あいさつの講演録でも議論されている.
①について,2017年度末の会員数はおよそ2万9,000人(学生員は内数で4,500人),過去10年に20%減少した.プラス材料は海外会員で内数3,200人,過去10年に25%増加した.今や全会員の10%超である.会員増強にサービス向上は必須として,会員喪失や獲得機会の分析,ターゲット層の明確化により,投資効果の高い施策を実行したい.電子情報通信技術のユーザである異分野・異業種の非会員,年齢幅を拡大するシニア層や若年層に向けた施策が議論され一部実行されている.
②について,論文成果の定量化としてインパクトファクターが使用され,読まれることへの要求がオープンアクセスへの流れを加速している.論文投稿を受付,査読を経て閲覧可能とすることのコストを筆者と読者にどう定量配分するかを判断しなければならない.判断の定量的条件がソサイエティや専門分野によって異なることも課題である.オープン化のすう勢により読者からの収入は縮小傾向とすれば,本会の事業のビジネスモデルに変革が必要である.参加費を収入源とするイベントモデルへの移行が一部始まっており,今後は同モデルの拡大やスポンサーシップの獲得を含めた各種モデルの議論が必要だろう.
参考としてIEEEの数字を見よう.IEEEの運営予算は年間およそ5億ドル,収入に占める会費の比率は12%,刊行物が42%,会議が37%である.本会に比べて会費依存率が低く,事業による収入の比率が高い.会員数は42万人で学生会員は12万人,学生会員の比率が高い.上位5か国は米国18万人に続き,インド,中国,カナダ,日本の順で,日本人会員が1.4万人.米国会員率は43%で,日中印の会員数の和が全体の20%となるようにアジアへの依存度が大きい.学生会員の上位5か国はインド3.7万人,米国2.6万人,中国,カナダ,韓国である.学生会員ではインドがトップであり,韓国が日本より多いことも注目される.IEEEはアジアでの学生会員獲得に成功しているのだ.
財務の分析は学会の持続性・成長性の検討に不可欠であり,学会のビジネスモデルにつながる施策が複数の委員会でそれぞれ議論されている.可能性があると思われる施策の多くも,まだ「数字」化されていない.課題は多いが発散していては理事任期があっという間に過ぎ去ってしまう.時間を区切り,優先度をもって議論し,実行に移していきたい.
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