小特集 1. リザバーコンピューティングの概念と最近の動向

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Vol.102 No.2 (2019/2) 目次へ

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リザバーコンピューティング

小特集 1.

リザバーコンピューティングの概念と最近の動向

Concept of Reservoir Computing and Its Recent Trends

田中剛平

田中剛平 東京大学大学院工学系研究科国際工学教育推進機構

Gouhei TANAKA, Nonmember (Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, Tokyo, 153-8505 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.2 pp.108-113 2019年2月

©電子情報通信学会2019

abstract

 リザバーコンピューティングは再帰的ニューラルネットワークの特殊なモデルを一般化した概念で,時系列情報処理に適した機械学習の枠組みの一つである.リザバーコンピューティングの最大の特長は,入力信号をリザバーで変換した後,読出し部のみを簡便なアルゴリズムで訓練することで,極めて高速な学習を可能にする点である.近年,リザバーコンピューティングの応用範囲は急速に広がり,また物理的リザバーを利用した機械学習デバイスの開発も注目されている.本稿では,リザバーコンピューティングの概要と最近の動向を紹介する.

キーワード:機械学習,ニューラルネットワーク,時系列,力学系,人工知能デバイス

1.は じ め に

 人工知能や機械学習による情報処理が欠かせない世の中になりつつある.これまで人手を掛けて判断を行ってきた業務を,データのみを用いて自動的に行おうという動きはビジネスの世界でも活発で,データの収集が成功の鍵になるとも言われている.こうしたトレンドを支える機械学習モデルの一つが,人工ニューラルネットワークである.その中でも,画像認識をはじめとする多様な応用で高い性能を発揮するディープラーニング(深層学習)が大きな注目を集めてきたが,これは階層的ニューラルネットワークを利用する.一方,再帰的ニューラルネットワークは,前の時刻のニューロンの状態が,他のニューロンにフィードバック入力されるような構造であり,時系列情報の機械学習に適している.リザバーコンピューティングはその特殊なモデルを基礎として発展してきた概念である.

 リザバーコンピューティングは,近年様々な実データの時系列パターン認識に応用されてきている.その最大のメリットは,他の再帰的ニューラルネットワークモデルに比べて,学習が極めて高速であるという点である.また,「作り込まない」物理的実装が可能であることから,新たな機械学習デバイスの開発につながると期待されている.そのため,リザバーコンピューティングは,機械学習やニューラルネットワークのコミュニティだけではなく,エレクトロニクスを含む他の分野からも高い関心を集めている.

 本稿では,リザバーコンピューティングの成り立ちと概念を解説し,その応用例と最近の動向について紹介する.なお,詳しい内容については,リザバーコンピューティングに関するレビュー論文(1),(2)を参考にされたい.

2.リザバーコンピューティングの概念

 リザバーコンピューティングの概念を説明するために,簡単な例を考えてみよう.リザバー(Reservoir)という単語には,液体を入れておく容器やため池,という意味がある.文字どおり解釈すれば,液体やため池による計算,ということになる.水面に石を投げ込むとしよう.すると,波紋のパターンが広がる.このパターンは,入力である石の大きさや形によって変化するから,入力の情報を反映していると考えられる.では,複数の石を続けざまに投げ込むと,どうなるであろうか.図1に示すように,石が一つの場合よりも,はるかに複雑な波紋パターンが生み出されるであろう.このような波紋の動的パターンは,投げ込まれた複数の石の大きさや形,更にはそれらの投げ込まれる順番にも依存する.また,波紋同士の干渉も起こるから,入力の与え方に応じて,非常に多くの時空間パターンが生成される.つまり,リザバーは,系列入力を波紋の時空間パターンに変換する装置とみなすことができる.


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