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リザバーコンピューティング
小特集 3.
柔らかいマテリアルの変形を用いた情報処理
Exploiting the Deformation Dynamics of Soft Materials as an Information Processing Device
abstract
柔らかいマテリアルは外的に圧力を受けると極めて多様な形状に変形する.この性質は,対象に押し当てることで適応的に形を変形し対象を包み込んでつかみ取ることが可能となるグリッパの研究にも巧みに応用されている.本稿ではこの柔らかいマテリアルのメカニカルな性質を情報処理の目的に活用することを考える.具体的には,柔らかいマテリアルの変形のダイナミクスを用いて筆記体が書けるという特殊なキーボードが構成できることを示す.本研究は,物理系のダイナミクスをリザバーとして活用する物理リザバー計算の新たなプラットホームの提案を企図するものである.
キーワード:リザバー計算,物理リザバー計算,ソフトロボット,ソフトデバイス
リザバー計算は,リカレントニューラルネットワークの学習法の一種として導入された(1)~(5)にもかかわらず,現在では任意の非線形力学系を計算資源として活用する手法として,当初の枠を越え,発展を遂げている.その威力は,物理実装において特に発揮され,量子多体系(6)~(8),スピントロニクス(9),(10),光(11),ナノマテリアル(12),ソフトロボット(13)~(21)など,既に応用例が続々と報告されている.物理実装されたリザバー計算は,PC上のソフトウェア内で実装されたものと区別して,特に物理リザバー計算と呼ばれる.
リカレントニューラルネットワークの学習には一般にバックプロパゲーションスルータイムの手法が使われ,出力層,中間層,入力層の結合は全て学習したい教師信号に基づいて更新される.一方,リザバー計算では,入力層,中間層の結合は不変のまま,リードアウトの結合のみを学習するというスキームを取る.この中間層に結合不変で準備されるリカレントニューラルネットワークはリザバーと呼ばれる.これにより,学習は極めて安定かつ迅速に実装され,数多くの応用が進められている(例えば,文献(22)~(25)).基本的には,通常のリカレントニューラルネットワークがターゲットとするタスクはリザバー計算においても実装の対象となる.例えば,入力に駆動された力学系のエミュレーションのみならず,出力を次の時刻の入力にフィードバックすることで自律力学系を学習することも可能である.情報処理の面では,リザバー部の重みは不変なので,学習させるタスク間の干渉を心配せずに,ある入力に対する複数の関数を同時に学習することが可能となる.これは特にマルチタスキングと呼ばれる(26).
本稿では,以下,柔らかいデバイスのための最新の応用例を紹介することで,物理リザバー計算の射程を議論する.
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