電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
リザバーコンピューティング
小特集 5.
微小光学系によるリザバーコンピューティング
Reservoir Computing by Micro Photonic Structures
abstract
リザバーコンピューティングという新たな計算原理のパラダイムが,信号処理や機械学習の枠組みを超え,応用物理の分野にもわたり注目を集めている.物理系に備わる非線形なダイナミクスを計算機能として活用することができれば,ニューラルネットワークにも比肩し得る処理能力を発揮できるという考え方である.レーザなど非線形光学系によっても実現するリザバーコンピューティングは,シリコンフォトニクスと潜在的に相性が良い.本稿では,IoT社会で必須の技術となるエッジコンピューティングを念頭に,微小光学系を利用したリザバーコンピューティング技術の可能性について紹介する.
キーワード:リザバーコンピューティング,レーザ,シリコンフォトニクス,IoT
新しい時代は,偶然や必然に導かれて諸条件が出そろった豊かな土壌の上に,ふいに出現する.ディープラーニング技術,コンピュータの高性能化,そして豊富なデータが入手可能になったことを受け,2010年頃から「第三次AIブーム」と称される時代が到来した.それ以前から存在した数多くの優れた統計解析や機械学習技術に改めて「AI」の名を冠することをためらう向きもあるが,この10年ほどの技術的発展の勢いそれ自体には疑いの入れようがなく,従来のコンピュータには到底不可能であった高度な知的処理が可能となった.2011年にIBMのコンピュータWatsonが,米国の伝統的なクイズ番組「Jeopady!」で人間のクイズチャンピオンを破り話題になると,2015年にはGoogleのAlpha Goが囲碁チャンピオンを,2018年にはIBMのDebaterがディベートチャンピオンをも破った.これら大型プロジェクトよりも比較的小さな単発の知的処理だけでも,画像認識,音声認識,生成モデルなどにおいて,毎年のように記録が更新されている.いずれも最新のAIアルゴリズムによるものであり,その動作を支えるのはノイマン形と呼ばれる旧来のアーキテクチャを備えた巨大な計算サーバ群である.一方で,あらゆる‘もの’同士がつながるIoT(Internet of Things)時代の要請に鑑みると,計算サーバ群を含むこれらのAIシステムには幾つかの問題がある.まずはばく大な消費電力である.WatsonもAlpha Goも,いずれも100~200kWもの電力を消費し,人間の脳の消費電力約20Wと比べると1万桁程度も大きい.しかしIoTにおいて求められるのは,中央サーバで力任せの演算処理を行うのではなく,センサやカメラなど,システム末端の小形デバイス自体が簡易な知的処理を行うエッジコンピューティングと呼ばれる技術である.これら小形デバイスは,多くの場合外部からの電力供給が乏しい状況(ドローン上など)で使用されるため,消費電力の極めて低いAIシステムの搭載が求められる.もう一つの問題は,ディープラーニングやリカレントニューラルネットワークなど多くのアルゴリズムが,学習パラメータが膨大であるため,学習に多くの時間を要し,小形デバイス上での軽量な逐次学習(オンライン学習)ができないという点である.
続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード