解説 半導体薄膜レーザとその集積化の現状

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解説

半導体薄膜レーザとその集積化の現状

The Current State of Semiconductor Membrane Lasers and Their Integrations

荒井滋久

荒井滋久 正員:フェロー 東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所

Shigehisa ARAI, Fellow (Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, 152-8552 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.2 pp.165-170 2019年2月

©電子情報通信学会2019

abstract

 集積回路内の電気配線層の低消費電力化に向けた光インタコネクトの可能性が1984年に提唱されている.光検出器の最小受信電力で規定される光出力を極低消費電力で送信できる光源が要求されるが,近年の半導体レーザの低消費電力・高速動作化の進展とともに,その可能性が増しつつある.本稿では,集積回路上の光インタコネクトを目指して研究を進めてきた半導体薄膜レーザの基本構造と動作原理及び期待される基本特性,更にこれまでの進展状況について御紹介するとともに,現状の課題と今後の展望について御報告する.

キーワード:半導体レーザ,半導体薄膜レーザ,光インタコネクト,光配線,集積回路

1.は じ め に

 近年では半導体レーザ技術の成熟により,情報通信技術を支える長距離広帯域光ファイバ通信システムのみならず,データセンターをはじめとする大形計算機施設のスーパコンピュータ内の信号伝送に数万~数十万個の大量の半導体レーザが使用されている(1).これは計算機の大規模化に伴い,CPUやGPU等のチップ間だけでなく,比較的距離の長いボード間やラック間(数mから長いものでは数km)を相互接続するために,単一の光ファイバチャネル当り20Gbit/s程度の高速信号を数千~数万チャネル接続する必要があるためであり,伝送される信号総量は数百Tbit/s程度になる.光ファイバ通信は,そのような高速信号を電気配線よりもはるかに低損失で伝送できるため,信号伝送に関わる消費電力を低減できる利点を有しており,低消費電力の大形計算機には光通信が使われるようになっている.

 1980年代にStanford大学のGoodmanらは,大規模集積回路の消費電力に占める電気配線における消費電力が将来のボトルネックとなり得ること,及びその解決のために必要とされる種々の光素子への要求について展望をまとめた(2).しかし,当時の半導体レーザは動作電流,効率,高速性の観点で有力な光源とはみなされていなかった.1990年代の面発光レーザの極低電流動作の実現が契機となり,光インタコネクトへの半導体レーザ応用の機運が高まり(3),(4),2000年には光配線を用いることにより1bitの信号を伝送するのに必要なエネルギーは100fJ以下にでき,集積回路上の比較的遠い距離を結ぶグローバル配線を置き換える可能性が示された(5).その後の集積回路技術の進展に伴い,更に一桁程度の低エネルギーコスト化が求められるという試算がなされた(6).また,そのための鍵となる光素子として,チップ外からの入力レーザ光とチップ上のSiやGeを用いる超高速光変調器を用いる研究が多く報告されているが,我々はチップ上に低消費電力で直接変調可能な半導体レーザの可能性について2000年代から研究を開始した.

 本稿では図1に示すように,LSI上のグローバル配線を低損失光導波路を介して光源と光検出器を結ぶ光配線を目的とした半導体薄膜レーザ(メンブレンレーザ)について,その基本構造と動作原理,期待される特性,作製法とこれまでに得られた特性について述べるとともに,残されている課題と今後の展望について報告する.


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