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ITの進歩は目覚ましく,我々は日常生活ではスマートフォンをはじめとして様々なIT技術成果の利便性を享受している.AIが,5G,Big Data,IoTなど様々なホットな分野で必須のものとして大きな役割が期待されている.
さて,2045年に人工知能(以下AI)が「人知」を超えると予想する論者もいる.この事象はシンギュラリティと名付けられた.キャッチフレーズとしてはなかなかのものである.
コンピュータに超えられるとする「人知」は,コンピュータと対立するものとして捉えられている.更に,分析的知によって全ては完全に理解され得るという大前提が根底にあるようだ.
一方,人間の知的能力は脳だけによって実行処理されているのではないことが明らかにされつつあるようだ.例えば,東洋医学における経絡は,解剖によってはその存在は立証できていないようだが,経絡に基づく身体論,武道論は実際には有力な指導原理の一つである.
2045年以降はAIが人知を借りないで,更に高度なAIを開発する可能性があるという.このような進歩(これを進歩と言うなら)を,適切な制御なしで許容すれば,制御なしで自走を許した場合の原子炉のように,人の手に余ることも想定されるかもしれない.
AIが人の職業を奪うとも言われている.18世紀の産業革命(第一次産業革命)のときのラッダイト運動を想起させる.それ以降も,機械が人間の職業を奪うという議論が繰り返えされてきた.
現在の第四次産業革命においてAIは大きな要素の一つである.オックスフォード大学の研究者によれば現在の約700の職種のうち,約70の職種はAIに置き換えられる可能性が小さいという.ボストン大学の経済学者は,米国でATMが導入されて以来,銀行の窓口業務従事者が予想に反して増加したことを実証し,それまでの思い込みを覆した.機械でもできる業務から,より高度なコンサルタント業務などに人手が必要な職業が様変わりしたのである.
長期的には,機械によって人の職業が奪われ労働人口を減らした経験は過去にはない.むしろ,人間の適応力と創造性をより発揮できる職業の需要を生み出し,労働人口の増加をもたらしている.
シンギュラリティのもう一つの特徴に「効率」追求がある.ここで,学会の主要な活動分野の一つである大学教育を考えてみよう.
「なぜ,大学では,いまだにこの何十年間,社会に出て役立ちそうにない古典物理学や,微分積分などを教えているのか.例えば,AI開発に直接役立つことを教えればいいのではないか」と考える人がいる.即戦力として役立つことを学んだ学生が,中堅として活躍する10年後20年後,あるいはリーダー的立場にいる30年後40年後,人生100年時代だと更に先,に何が必要になっていて,「効率的」な教育がそれらの時代の要請に応えているだろうか.
「人々は自分の代わりに働いてくれる道具ではなく,自分とともに働いてくれる新しい道具を必要としている」(「コンヴィヴァリティのための道具」イヴァン・イリイチ(著),渡辺京二・渡辺梨沙(訳)),このような観点からのAIの方向付けも重要だろう.
電子情報通信学会はAIに関わる主導的な学会の一つである.一昨年創立100周年を迎え,2世紀目に入る100年間に,例えばAIをキーワードとして,学会がどう寄与するのかいろいろな側面から考えることも有益であろう.もちろん,標準化の側面も.
このまとまりのない拙文を終えるにあたりAIの助けを借りなかったことを宣言します.誰ですか,AIを使えばもっといい巻頭言になると言うのは.
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