巻頭言 イノベーション時代の学会

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.102 No.7 (2019/7) 目次へ

次の記事へ


巻頭言

イノベーション時代の学会 Academic Society in the Innovation Age総務理事 滝田 亘

 昨年6月から本会総務理事の重責を担うこととなり,早いもので1年がたとうとしています.これまでとは異なる学会との関わりを通じ多くを学ぶ機会を得たと感じています.以前から考えていたことではありますが,現職での活動を通じてイノベーション時代における学会の役割についてより深く考えるようになりました.シュムペーターの定義を持ち出すまでもなく,イノベーション,つまり価値創造が発明や発見とは異なるものであることは,よく知られたことと思います.今世紀に入った頃からと思いますが,今はイノベーション時代であり,発明や発見よりイノベーションが重要との意見を耳にすることが多くなっています.一方では発明や発見をイノベーションにつなげることが難しくなっているとの話もしばしば耳にします.多くの場合,学術研究の直接的な成果は発明や発見ですので,これらがイノベーションにつながりにくくなっているのは悩ましい状況と思います.これは全ての技術分野に共通ではなく,創薬など発明や発見がイノベーションにつながりやすい分野もありますが,本会に関わる分野の研究者からは,難しい時代となったとの声がしばしば聞こえてきます.

 発明や発見がイノベーションとつながりにくくなっている原因については,いろいろな意見があると思います.私はこうした課題を抱えている技術分野が既に大きな進歩を遂げていることが要因と考えています.これを科学技術分野の経験則である技術のSカーブに当てはめて緩やかに成長する成熟段階に至った状態と解説することもできますが,これだけでは何らかの解決策につながりません.そこで,Sカーブの初期段階と成熟段階での緩やかな成長,中間段階での急速な成長となる原因をもう少し掘り下げてみたいと思います.Sカーブの初期段階,つまり未踏分野の開拓が始まった頃は,それ以前の蓄積はなく,新たな分野に挑む少数の研究者が生み出した数少ない発明や発見が存在するだけの状況と思います.研究者間の議論も限られていますので,発明や発見が結合する機会に乏しくイノベーションが生まれにくい緩やかな成長となると考えています.この初期段階での緩やかな成長の中で発明や発見の蓄積が進み,それらが相互に結合する機会が増えイノベーションが生まれやすい状況に至ると,研究者の増加とそれに伴う発明と発見の増加が生じ,イノベーションがより一層生まれやすくなるという好循環が発生することで急速に成長する中間段階に進むと考えています.この中間段階における発明や発見の蓄積が進みそれらが相互に結合され尽くされると,発明や発見の適切な結合場所が限定され,新たな結合によるイノベーション発生が少なくなり,成長の緩やかな成熟段階となると考えています.

 技術が進歩を重ね発明や発見がイノベーションにつながりにくい状況に直面した場合,別分野に挑戦することも一案ですが,その成熟分野の発明や発見を他分野のものと結合することでイノベーションを生み出すことも考慮に値すると思います.私はこうした学際的な分野でのイノベーションは,様々な分野の研究者が意見を交わしやすい環境を作ることで促進されると考えています.そして,そうした議論を活性化する研究者交流の場を提供することが,イノベーション時代における学会の大きな役割と考えていますので,本会でもそうした活動を盛り上げることに尽力していきたいと考えています.本会では様々な分野の研究者を集めた大会を年2回開催しています.次の大会に参加される際,他分野のセッションにも参加してイノベーションを生み出す議論の場として役立てて頂ければ幸いです.


オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録


  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。