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本年2019年4月3日,朝日新聞のコラム「天声人語」の記事の一部です.
「“二つなき恋をしすれば常の帯を三重結ぶべくわが身はなりぬ”.万葉集研究者の中西進さんは子供向けにこう解説する.『恋の病でウエストが三分の一になる』.万葉人を身近に感じてもらう工夫である」と.多感に感情を込めた歌から,枝葉をそぎ落とした本質だけの訳(解釈)と捉えることができます.
昨今,様々な技術分野において解析の高度化,複雑化が進み,理論検討よりも計算機シミュレーションによる問題解決や研究が盛んに行われています.私の専門分野である無線通信分野もその例外ではありません.
計算機シミュレーションは,複雑な現象をそのままモデル化してプログラミングすることにより,求めたい結果を比較的容易に得ることができます.これが大きな特徴の一つと考えます.特に,計算機シミュレーション利用環境の充実,計算処理速度の向上などによりその利便性が飛躍的に向上したことから,複雑な現象をそのままモデル化してプログラミングすることが当たり前のように行われています.
しかし,現象が複雑であればあるほど計算機シミュレーションによる結果の妥当性をどのように検証するか,保証するかが重要となります.ある意味,計算機シミュレーションの“可視化”の実現法と言い換えることもできます.
一般に,理論解析はその途中経過を追うことが可能であり,その妥当性を検証できます.しかし,複雑な現象をそのままモデル化して理論解析することは基本的に困難です.そこで,複雑な現象の枝葉を取り除いて本質部分だけを抽出することにより,または大胆に近似した簡易モデルを仮定することにより理論解析が可能になる場合があります.また,その簡易モデルを用いた計算機シミュレーションにより,元々の複雑な計算機シミュレーションの妥当性の検証が容易になることがあります.
簡易モデルを作成するには,複雑な現象から本質部分だけを抽出しモデル化する能力や技術が必要です.換言すれば,複雑な現象に対してその本質と枝葉を見分ける技術と捉えることができます.それを行うためにはそれなりの知識や経験が必要となり,短期に結果が求められる状況下において時間をかけて構築する簡易モデルによる理論解析や計算機シミュレーションは後回し,または敬遠されがちのような気がします.この流れが進めば,本質部分を見抜く技術者を育成できなくなることが懸念され,その育成をどのように行うのかも課題の一つと考えます.
本会の会員には電子,情報,通信関連の専門家であるシニア世代の学者,研究者,技術者が数多くいます.また,退職して一線を退いたがまだ研究活動を続けている大学名誉教授や元研究所員などの専門家もたくさんいます.このような方々は知識や経験が豊富であり,間違いなく若い当時は“簡易モデル”により解析または計算機シミュレーションを行った世代であり,冒頭のコラムにあるような本質部分を見抜く技術を兼ね備えています.
例えば,一線を退いた学者,研究者,技術者の方々が本会の活動を通して,または活動の一環として,本質部分を見抜く技術やノウハウを本会の後輩会員に分かりやすく伝授して頂ければ,本会のみならず我が国の技術の発展に貢献できるものと信じています.そのためにも,シニア世代の会員の皆様の本会へのたゆまぬ御支援を期待しています.
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