巻頭言 様々な困難を乗り越えて

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.103 No.11 (2020/11) 目次へ

次の記事へ


巻頭言

様々な困難を乗り越えて We Have Overcome Various National Difficulties with Technology編集理事 川端明生

 昨年6月から編集理事を務めております.編集理事は,理事としての各種学会運営と併せて,会誌の編集や各種学術雑誌における共通的な規定や運用方法の議論などに携わっております.会誌は,分野別の雑誌とは異なり,幅広く会員の方々への情報発信を目的としており,特にOpen Access記事は会員以外の方も閲覧できますので,より多くの読者層を対象としています.編集段階では,ジュニア会員・学生員向けの記事を選んだり,海外に向けて発信する記事を選んだり,と記事内容の充実と併せて購読者層の拡大にも努めております.掲載記事の執筆も非常に多くの方々に協力を頂き,この場を借りて御礼を申し上げたいと思います.

 会誌ですが,1917年6月の電信電話学会雑誌第一号から学会のホームページ上での閲覧が可能となっています.新型コロナウイルス,甚大な被害を及ぼす自然災害が多発するこの時代に,会誌の歴史を振り返りながら,本会が苦難な時代にどのような情報発信をしてきたのか振り返りたいと思います.

 記念すべき第一号では,利根川守三郎会長の就任演説が掲載され,その中では「以前は,日本は外国の研究成果を輸入して成立しており,様々な技術を教えてくれた.だが,先進国もだんだんと日本を恐れるようになり,そう簡単に技術を教えてくれなくなった.これからは,独立独行し自ら研究を進めなければならず,暗夜に燈を失ったように感じるが,それこそが奮起に値し競争相手に遅れを取ってはならない」とあります.

 太平洋戦争の末期は,印刷工場の焼失により1944年11月以降出版ができなくなり,終戦後の1945年11月から出版が再開しています.再開した会誌に星合正治会長の就任演説が掲載されています.「吾等は戦に敗れた」というサブタイトルで始まる演説記事には,「明治維新以来,我が国の前進振りはすばらしいものであった.前世界大戦以後,国際的地位は果たして一流国家としての実力に裏付けられたものだったのか.指導者も科学的根拠に基づく判断を下さず自己陶酔に浸り今日の事態となったのではないか.我が国は,自由主義,平和主義の見地から根本的な立て直しを行わなければならない.足元をしっかり踏み固めて確実な歩調をもって出直す必要がある.科学・技術に立脚した国民生活安定の確立こそは技術者の責務である」とあります.

 記憶に新しいところでは,2011年3月11日の東日本大震災の後,2011年7月号の安田浩会長の就任あいさつが記事になっています.記事の中では,「心から哀悼の意を捧げるとともに,ICTにかかわる課題は,大部分は既に指摘されていた事項ではあるが,対処が途上であり課題解決の加速が問われている.取組みの方向を変えるのではなく,努力の増加・加速を要求していることは明らかである」とあります.

 100年を超える電子情報通信学会の歴史において,国家レベルの幾多の困難がありました.歴代の会長の言葉からも,暗闇の中から自分たちで技術を作り上げていく強い意志,多くの犠牲を伴う困難に対しても,我々にも社会に向けて何かできるという信念をもって取り組んできた軌跡があります.新型コロナウイルス,甚大な被害を及ぼす自然災害が多発するこの時代に,情報通信技術への期待は高まっていると考えます.私自身も一人の研究者・エンジニアとしてこれらの課題へ取り組む勇気を過去の記事からももらいましたし,会誌の編集担当としても本会の取組みを,しっかり歴史に残る形で記事にしていくことに尽力したいと思います.10年度,50年後に記事を見た方が,困難な時代にも,強い意志と信念で困難に立ち向かっていたと,読者に勇気を与えられるような会誌にしていきたいと願っております.


オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。