巻頭言 これからの学会が目指すべき会員サービスについて

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Vol.103 No.3 (2020/3) 目次へ

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巻頭言

これからの学会が目指すべき会員サービスについて What Kind of Membership Benefits the IEICE Should Offer Going Forward?企画理事 坂井 博

 国内の学会の会員数が減少しています.科学技術振興機構(JST)と毎日新聞の調査によると,ここ10年で国内の主要学会の約70%が会員数減となっているとのこと.総務省の統計では,2018年の国内の自然科学系の研究者数は約79万2,000人と,14年前の2004年の約71万500人から増えているので,単純に研究者の減少によるものではないと言えます.

 現在,約26,000人の会員が在籍している本会も例外ではなく,特に社会人,それも企業所属会員の学会離れがここ数年顕著になっています.会費が高いといった声も聞こえてきますが,本質的な課題は,会員に「学会に在籍したい」と思わせるサービスが十分に提供できていない,もう少し言えば,以前ならば会員のモチベーションになっていた学会の各種サービスが,時代の変化とともにその価値を失っているということなのではないかと感じます.

 “学会の存在意義”というキーワードで検索すると,「最新の研究成果を発表できる大会や研究会の開催」,「厳正な査読システムに基づく良質な論文誌の発行」,「同じ分野の研究者との仲間作りの場」といった結果が得られます.いずれも学会が果たす重要な役割であることは間違いありません.私が学生のときは,学会の全国大会が対外発表デビューの場でしたし,企業の研究所に就職した後も,研究会→国際会議→論文誌と成果をブラッシュアップしていくのが当たり前でした.その過程では,学会が発行する論文誌等で先行研究を随分調査しましたし,会議の会場で同じ分野の研究者とたくさん議論した記憶があります.思い返すと,学会が提供していたサービスが,当時の自分にとってほとんどオンリーワンに近いものであったように思います.

 一方,現在は非常に細分化された専門分野のワークショップやWebinarなど,より高度な情報を得る場が数多く存在しており,グローバル化が重要視されている中,いきなり国際会議や国際論文/ジャーナルで成果を発表している企業研究者も少なくありません.また,LinkedIn,Facebookなどのソーシャルメディアの発達により,会議の場に赴かなくても研究者同士がコミュニケーションする手段が簡単に手に入ります.つまり,学会が提供してきたサービスの価値がどんどん失われているわけです.

 このような危機意識の下,本会ではサービス委員会という組織で,これからの学会はどのような会員サービスを提供していくべきかを検討しています.刊行物のオンライン化や,シニア会員向け企画であるプラチナクラブの活動など既に実施している施策に加えて,学会サービスを大学低学年や高専生,高校生や中学生といった若い世代にも体験して頂けるようにするジュニア会員制度など新しい会員サービスも導入間近です.

 ただ,残念ながら,現役世代の企業所属会員向けにこれまでにない新しい価値を提供するレベルには達していないのが現状です.

 今,多くの企業が異業種パートナとのコラボレーションによるイノベーションにチャレンジしています.私が所属するNTTでは,重工業分野のパートナとのコラボレーションにより,通信で利用している光ファイバをレーザ加工用ファイバに応用したといった成功例があります.なかなか簡単ではありませんが,うまくいったときには自社では決して気付けない応用例を見いだせたり,その分野特有の課題をクリアすることで技術レベルが進化するといった大きな価値を生み出すことができます.本会においても,「電子情報通信学会は,電子情報通信分野の会員に向けてサービスを提供する」という固定概念を捨て,異分野の学会会員に向けて電子情報通信分野のトレンドを発信し,その方々に本会の大会にも参加して頂くことで,本会の企業所属会員が異業種の専門家と触れ合う場を提供するなど,まだまだネットの世界では敷居が高い(と思われる)異業種間の交流を促進する取組みがあってもいいかもしれません.

 学会でイノベーションを起こすのは,なかなか難しい課題ですが,日々悪戦苦闘していきたいと思います.


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