巻頭言 3度目のニューノーマルに向けて

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Vol.104 No.1 (2021/1) 目次へ

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巻頭言

3度目のニューノーマルに向けて Toward 3rd New Normal会長 笹瀬 巌

 「ニューノーマル」とは,社会的に大きな影響を与える出来事により,社会変化が生じて,これまでの「当たり前」が通用しなくなり,新しい常識や常態が生まれることです.これまでにも,2000年初頭のインターネットの本格的な普及,及び2009年以降のリーマンショックを起因とした世界金融危機によって生じており,今回のCOVID-19コロナ禍で3度目となります.1度目のニューノーマルでは,ベンチャーIT企業の急成長により,旧態依然の営業・広告・販売方法が通用しなくなり,2度目のニューノーマルでは,世界経済が減速した状態が続き,国連のSDGs(持続的発展可能な目標)やCSR(企業の社会的責任)等,企業の取組みや責務が追求されるようになりました.このように,これまでのニューノーマルでは,社会とビジネスモデルが大きく変わり,企業は変革を余儀なくされました.

 今回のコロナ禍に起因するニューノーマルに向けて,ICT(情報通信技術)の研究開発に携わっている私たちには,プロフェッショナルとして,テレワーク,オンライン教育・医療等など,様々な分野の課題解決に向けて,「情報通信技術の浸透が,人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ためにDX(ディジタルトランスフォーメーション)を一層推進することが求められています.本会も,本年6月に,「コロナ後の新たな電子情報通信技術の発展に向けて」と題して,①働き方改革の促進,②レジリエントで安全な社会の構築,③新たなICT活用の促進,④新たな教育システムへの貢献,⑤全ての人々にICTを,の5項目の会長声明を出し,総力を挙げて,コロナ後の生活が安全で実りのあるものになるように,ICTの立場から技術開発を進めています.しかしながら,コロナ禍においては,ビジネスや経済だけでなく,慣れ親しんだ生活様式・習慣まで変えざるを得なくなっています.また,自粛生活や行動制限の長期化による疲れやストレスに起因した,ICTの利活用だけでは解決できそうにもない,ライフスタイルの新たな課題も生じています.

 感染症のパンデミックは,これまで何度も歴史を変えるほどの影響を及ぼしてきました.例えば,14世紀には,「黒死病」と呼ばれるペストの大流行により,当時のヨーロッパの人口の3割に相当する2,500万人以上が死亡しました.ペストの社会的影響は深刻で,多くの人が人間不信になり,法も秩序も崩壊しました.また,教会の教えにも疑問を抱くようになり,文明自体も壊滅寸前にまで追いやられました.歴史から教訓を学ばず,コロナ禍が生じることを全く予測できなかったことを,私はとても残念に思っています.

 幸いなことに,我が国は,現時点では,ビジネスや経済活動は何とか維持され,法や秩序も保たれていますが,コロナ禍の終息には,まだかなりの時間がかかると思われます.ICTのお陰で,「いつでも,どこでも,誰とでも」つながることは実現されてはいますが,「今だけ,ここだけ,あなただけ」という,五感や雰囲気まで伝わる現実空間の再現には至っていません.

 私は,コロナ後のニューノーマルに向けて,「情けに報いて,信(よしみ)を通わす」真の「情報通信」を実現するには,技術開発だけでは不十分だと思います.歴史・文学・音楽・美術など,人類が築き上げた文化・文明を学ぶとともに,自然科学への造詣を深め,広い視野と深い教養に基づいて,物事を判断できるよう,自己研鑽し,人間力を高めることが必要であると思います.


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