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2019年から調査理事を担当しています.名称のとおり各種調査業務を担当していますが,担務の一つに様々な渉外業務があります.学会への外部からの依頼事項は多方面にわたりますが,典型的な例が,他団体からの協賛・後援依頼です.イベントの目的が会員の興味に合っているか,特定団体の営利目的ではないかなどを調査した上で,許諾可否を判断しています.こうして会員の皆様に役立つであろう情報が,Webやメール経由で届けられるわけです.今回調査理事を承るまでは,正直私自身こうしたイベント告知を何気なく見過ごしていました.しかしながら,個別に丁寧に調査をする役割になると,学会は極めて多彩な機会を会員に対して提供していることを改めて実感します.
私は大学卒業以来,企業内研究者としてのキャリアを歩んできました.企業内研究者の役割は,社会にとって有意義な‘もの’やサービスを,誰よりも早く,かつ,持続可能な形で提供し続ける仕組みを作り上げることです.社会課題を特定し,その解決方法を競合に対して差異化した上で市場に問う,すなわちイノベーションの創出です.イノベーションは様々な経営資源の新結合であると言われます.本会の企業会員の多くはエンジニアであり,私と同様に技術視点で斬新な発想やフレームワークを発掘・組み合わせて,社会に新しい価値を生み出すヒントを役割上日々求めているはずです.
欧米では技術イノベーションの創出にオープンイノベーションを活用することが当たり前になっています.特に米国では,優れた原理を構築した先生方が,自らベンチャーを作り,社会への実装力に優れた大企業がそれをスケール可能な社会価値に転じさせることが普通に起きています.日本でも,自社単独開発を考える前のファーストチョイスとして共創を考える風潮は定着しつつあります.オープンイノベーションは自然に発生するわけではなく,主体性を持った人間が意図をもって作り出すものです.そのためにも,過去の自分の経験になかった新しい‘もの’・‘こと’,そして何より人との出会いが,その誕生に重要な役割を果たすのは明らかです.一方で感染症という新しい脅威が顕在化した今日,出会いの場が大幅に減っているという残念な現実があります.
冒頭申し上げた外部団体連携だけでなく,学会では大会や研究会など会員同士が技術知識を交換し合う場を用意することで,自分の見識を発信し,他人の発想から刺激を受け専門性を深める出会いの機会を提供してきました.感染症対策としてのイベントオンライン化も,参加のハードルを下げるというメリットをもたらしています.ただ本来イノベーションは,従来予想さえしなかった異なる発想の出会いによるはずです.学会からの機会提供は専門または隣接領域に関するものがほとんどです.出会いのバリエーションは限定的であって,異文化遭遇のきっかけとなるイベント開拓は十分ではありません.専門領域における横の連携を,従来の枠を超えて非隣接領域へと質的に大幅に拡大することが,会員にとっての学会価値向上という視点で求められているのではないでしょうか.更に言えば,ICT技術での社会課題の解決というゴールに向けては,横の連携だけでは足りません.社会課題を持つ人と,その解決策を模索している人,更にはその解決策に理論的裏付けを与えることができる人の間での縦の連携が必須です.大学の研究者と企業の研究者が集う本会は,企業側が持つ解くべき社会課題と,大学側が持つ本質的な解決手法としての新技術のマッチングを演出することも可能なはずで,そんな機会を学会が主体的に創り出していけたら,本会を陰で支えてくれる維持員各社様にも新たなベネフィットとしてアピールできます.そしてそれは結果的に学会活動を拡大するための貴重なリソース獲得につながるのではないでしょうか.
ICT専門家集団の枠を超え,技術の需要家や社会維持のための各種制度設計専門家などとの出会いの場を電子情報通信学会が提供することができないか.調査担当としてそのような機会の探索をしていきたい.このような思いをもって残り短い任期ですが,調査理事としての活動を進めていきたいと考えています.
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