巻頭言 2035年 電子情報通信学会が作るBeyond 5Gの未来

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Vol.104 No.7 (2021/7) 目次へ

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巻頭言

2035年 電子情報通信学会が作るBeyond 5Gの未来 Beyond 5G Future Life in 2035, Realized by IEICE Technology副会長 山中直明

 朝7時にI2-E2(IEICEのメンバーが設計した認知形ロボット)に起こされる.I2-E2との付き合いは,もう20年以上になり,私を自分の両親以上に知っているロボットである.顔を見るなり,「うん.まあ,調子はまずまずだね!」(顔の表情,脈拍,声のトーンを分析している)「昨日は少し運動不足だったから,今日は歩いて仕事に行けよ!」と,この2年間で運動量が減っていることを気にかけてくれる.

 朝食は2粒の栄養補助ピルで味気ない.トイレに行くことによって分析され,20年間の自分のデータ,同世代の日本人との比較,そして今日の状況に基づいて朝食の成分が決められている.でも,監視されているようでいまだに気分が悪い.データからすると,コントロールどおりに生きることが一番健康で長生きできるようだ,と半分諦めてはいる.2020年,おじいちゃんは「AI,ロボット,ネットワークが次の時代の重要技術だね」と言っていた.常につながることにより,「未来予測形サイバーコントロール」が常識となった.つまり,私のアバタはサイバー空間で圧倒的なコンピュータパワーで未来をいろいろな組合せでシミュレーションし,最適な未来を決めてくれる.それに向かって現実の行動をするのが(バックキャスト形制御)最も安全で快適,そして社会も自分もベストな選択だそうだ.でもたまに,何か決まったレールの上にいるみたいで,冒険ができないと感じてしまうのは自分だけだろうか.なぜってどうせシミュレーションで決まっているからだ.サイバーフィジカル,ディジタルツインの進化はサイバー中心で,サイバー上のアバタが未来を決定する.リアルは,サポートロボットがいて自分の生活を的確にインストラクトしてくれる.I2-E2に促されて,今日は午後からグリーンヒルバーチャルテニススクールに行く.実際は自宅の2階の部屋だが,昔のロードランナー(昔は走るだけだったが)の床が左右前後に動き,壁はバーチャル空間なので,今日はローランギャロスのフレンチオープンのセンターコートを約束している.おじいちゃんの時代は,COVID-19が流行したそうで,そのためにリモート会議ができると自慢していたけど,今ではリモートスクール,リモートオフィス,それどころかリモートでのテニスもできるから便利だ.

区切

 2035年,いわゆるBeyond 5G,6Gの時代の様子をシミュレートしてみた.ロボットは共生,知能創発形と呼ばれ,人と共存し個人個人をサポートするものとなる.また更に,センサを駆使し,表情を見て,感情も理解しヘルスケアのサポートも行うことになる.AIといっても「人間と連携,協力し社会の一員」となるように進化するだろう.一方で,サイバー上にあるツイン(本人のバーチャル上のアバタであり,本人と同様の意志,希望,判断を行うもの)は,他のツインと協調してシミュレーションを行い,理想未来を推定,構築する.その未来に基づき,そうなるように現在の行動を取らせる.ただしこれは,実はコンピュータが未来を決めて,我々はそのナビゲーションどおりに行動するという,現在も問題となっている同質性やエコーチェンバー効果という,知らず知らずにネットの言うことを信じ,意思決定を行う問題の延長にほかならない.自ら行動しているように考えているが,実は限られた選択肢を作り,コントロールされているという現象である.安全や高効率であるが,一方,個性や「自分とは何か」という問題もある.2035年の未来を見ると,多くの期待が電子情報通信学会に集まる.私が担当している学会運営,組織強化を考えると,大切なのはテクノロジーであると同時に,人間に対するインパクト(医療)や,コントロールされないか(社会科学)とか,更には法律,政策,もちろん日本が発展するためのエコノミックスとの融合であることが分かる.学会はみんなで作るコミュニティであり,お互いに貢献し,支え合いながら違う考え(多様性)と出会う場であり,この多様性をもっと広げていかなくてはいけない.それがなければ未来は描けない.

 「もっと人間的で,豊かで,幸せな社会とは何か」を求めて,電子情報通信学会も文理融合をしながら,未来探しをやっていこう.いずれコロナは収まり,おかげで大きく進化した社会がスタートすると思う.


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