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CMOSインバーティブルロジック[Ⅰ]
――確率的双方向計算手法の基礎――
CMOS Invertible Logic[Ⅰ]: Basic of Probabilistic Bidirectional Computing
インバーティブルロジックは,確率的デバイスモデルに基づき双方向計算を実現する,新概念コンピューティングの一つとして近年提案された.双方向計算という従来手法にはない特長により,素因数分解処理や機械学習などへの応用が期待されている.本講座では,既存のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)デバイスによる既存ハードウェア上で実装可能なCMOSインバーティブルロジックの概要や先行研究との位置付けについて解説するとともに,典型例を用いたCMOSインバーティブルロジックの基礎に触れる.
過去50年間コンピュータエレクトロニクス及びIT技術は,ムーアの法則と呼ばれる半導体微細化の進展により飛躍的発展を遂げてきた.現在のコンピュータシステムは,論理を「0」と「1」で表すブール論理に基づき設計がされており,極限まで微細化されたCMOSデバイスにより高性能サーバからスマートフォンなどの省電力モバイル端末が実現されている.しかしながら,CMOSデバイスの微細化は物理的限界に迫っていることから,従来のような微細化によるコンピュータシステムの性能向上が困難になりつつある.更に,半導体微細化に伴うプロセスばらつきや製造コストの大幅な増加など,様々な問題を抱えている.
一方で,近年の深層学習の飛躍的発展に伴い,機械学習や人工知能技術は,自然言語処理・画像認識・医療など様々な分野で応用されている.機械学習や人工知能技術は実生活でより一般的に用いられつつある一方で,要求されるコンピュータの計算量は飛躍的に増加し,データセンターなどで消費されるエネルギーは非常に膨大である(1).計算機サーバは主にCPU(Central Processing Unit),GPU(Graphical Processing Unit),DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの半導体部品により構成されることから,半導体微細化によるデバイスの性能向上が困難になりつつある現状では,機械学習などを支えるコンピュータのこれ以上の高性能化・省エネルギー化は非常に困難であると言える.
Unconventional computing(Nonconventional computingとも呼ばれる)は,現在のコンピュータを支えるブール論理とは本質的に異なる演算手法の総称であり,デバイスの性能向上に頼らずにコンピュータの性能を向上させる技術の一つとして注目されている(2).本講座で解説するCMOSインバーティブルロジック(3)は,従来手法では実現が困難な「入出力間の双方向計算」を確率的に実現する手法であり,Unconventional computingの一手法である.図1に示すように,従来手法では入力から出力方向のは実現できる一方で,出力から入力方向へのは実現が困難である.それに対して,CMOSインバーティブルロジックでは,の逆方向計算を含む任意の関数の双方向計算を実現するものである.
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