巻頭言 多様な分野とのコラボレーション

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Vol.106 No.10 (2023/10) 目次へ

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巻頭言

多様な分野とのコラボレーション Collaboration with Various Fields東北支部長 山本健太郎

 本年7月から東北支部長を拝命しました.

 永く活発な活動を続けてこられた本会と東北支部の重責をひしひしと感じているところですが,さはさることながら,文系出身の自分がこんな大役でよろしいのか,という思いの方を強く持っていたところ,森川会長はじめ皆様から「今の時代はむしろ異色の出自の人間がいた方が学会にとってプラスである」との温かい激励を頂きました.

 本巻頭言でも7月,8月号と続けて「提供価値」や「インセンティブ」など,ひと昔前なら学会運営の話題では余り挙がらなかったであろうキーワードが語られていましたね.世の中の流れとその中でアカデミアに寄せられる期待と使命の大きさを実感しつつ,研究者ですらない自分でも,世の中側の目線でお役に立てればと思いを新たにしています.

 ところで,今年中学生になりスマホを買い与えた我が娘に,何気なく聞いてみました.

 「そのスマホ,なぜ家の中でも旅行先でも,動画も見られて友達とSNSができるか,分かる?」「…分かんない.」「知りたい?」「…別に.」

 これが一般人の現実でした.しかし,これほど情報ネットワークやサービスにつながっていることが当たり前の世の中になり,ひとたび災害が起きると孤立することが生命の危機と同義で語られるようになり…,その裏側を支える技術やアルゴリズムは専門家だけの知識になってしまったことを思うと,若い頃にインターネットにPCを接続するだけで大仕事だった我々世代としては一抹の寂しさとともに不安も覚えます.

 世の中側の視点で言えば,情報通信技術が電気・ガス・水道のような生活インフラになったというだけでしょう.私が長らく身を置いてきた産業界の立場で言えば,安定した市場が確立され今後はマイナーバージョンアップを繰り返しながら(利用者や消費者には見えないところで)製品とサービスを供給すればよい段階に入ったのでしょう.しかしながら,アカデミアの立場ではどうでしょう.

 「研究者たるもの世の中のニーズから離れたマニアになってはならない」という立場と,「コモディティ化したからこそ,市場が目を向けない細かな技術・理論を突き詰めるべきだ」という立場と,双方あるのでしょうが,少なくとも学会は,一見マニアに見えたとしても理論と技術の深度を追うべきと考えています.ただし,市場のニーズを横に見ながらです.プロスポーツの最高峰リーグがそうであるように,アマチュアでは及びつかないレベルの理論を深めつつ,しかし実際の利用者がその技術をどう使っているのかを定点観測することが求められるのでしょう.

 私の職場には,顧客のオフィスのLANケーブルを敷設したりWiFiルータの設置をする仕事をしている技術者もいます.いわゆる研究職の方が多くを占める会員の皆様から見ると,そこにR & Dの要素は全くない単純作業です.しかしながら,数十年この仕事をしている彼らには,驚くほど精密で美しい配線敷設をする技術や,周密に電波が飛び交う雑居ビル内で干渉を避けながら無線アンテナを配置するノウハウや,雪国ならではの積雪によるケーブル断線を防ぐ施工方法など,技術・製品の開発者も想定していなかったテクニックとしての技術と経験値があります.エンドユーザの利用の仕方だけでなく,R & Dとエンドユーザの間にいるエンジニアの世界とも,つながっていくメリットがあると考えますし,両者をつなぐことも,(特に私のような門外漢には)これからの学会運営に求められているものと考えています.

 新体制が発足した本会でも,「多様な分野とのコラボレーション」がキーワードの一つです.私のような文系の人間や現場作業をしている方々にも是非門戸を開いて頂いて,まるで大リーガーが草野球チームで新たなテクニックを見いだすときのような,新鮮な発見が増えることを期待しています.


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