特集 2. 暗号の発展――軍事外交から社会基盤へ・隠す暗号から認証安号へ――

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耐量子計算機暗号の最新動向

特集

     2.

暗号の発展

――軍事外交から社会基盤へ・隠す暗号から認証安号へ――

Development of Cryptography from for Military and Diplomacy to for Social Use

辻󠄀井重男

区切り

辻󠄀井重男 名誉員 中央大学研究開発機構

Shigeo TSUJII, Fellow, Honorary Member (Research and Development Initiative, Chuo University, Tokyo, 112-8551 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.11 pp.971-976 2023年11月

©電子情報通信学会2023

abstract

 メタバース環境が進む中でも,暗号と言えば情報を隠すことと認識している人が多いだろうが,多くのデバイス系の研究者も含め,本会会員には,暗号は情報秘匿と合わせて,本人認証・ディジタル署名,及び,やがて400億に達すると予想されるIoTの真正性確認等のための真正性保証の社会基盤であることを理解して頂きたいと念じて筆を執り始めている.そこで,言葉の使用と歴史を共有する暗号技法の概要を古代からIOWN環境下の耐量子計算機暗号まで概説する.コンピュータの普及に対応したディジタル署名,及び,鍵配送の悩みから発明された公開鍵暗号に関しては,細胞や宇宙のような物理的実在感がないため,非専門家には理解し難いので,その数学的構成を対話形式で分かりやすく説明する.

キーワード:歴史的役割,人・IoTの真正性保証,共通鍵・公開鍵暗号,マイナンバーカード,耐量子計算機数理・Y00量子暗号

1.暗号に対する社会的認識への期待

 公開鍵暗号の理論的美しさに魅了されて現代暗号の研究を始めた者として,暗号史の執筆を依頼されたことは光栄であるが,軍事・外交分野で長い歴史を持つ暗号に関する著書は枚挙に暇がないほど出版されており,どのような視点から6ページにまとめるかが悩ましいところである.

 小学校高学年時代に太平洋戦争を経験した者として,古典暗号(軍事外交暗号)についての関心も深いが,研究者として衝撃的だったのは1970年代後期の公開鍵暗号の発明である.1990年代,情報セキュリティの重要性がさけばれ始めた.とは言ってもセキュリティに関する実感は薄く,セキュリティ=暗号だったので,暗号に関する社会的関心は強かった.例えば,大蔵省(当時)に呼ばれると局長さんたちがずらりと並び,RSA暗号について,「貴著「暗号」(1)はよく分かった.しかし,素数って,そんなにたくさんあるのか?」と玄人裸足の質問を受けたりした.

 また,郵政省(当時)電波監理審議会で,野田聖子郵政大臣(当時)に上記の拙著を差し上げたら「こういう本が読みたかったのですよ」と言われたり,永田町の自民党本部で,朝8時から暗号の講義を頼まれたりしたものである.その後,電子署名法が施行され,暗号の実用化が進むと暗号は社会基盤の底に沈み,話題性はなくなったが,最近,暗号通貨の普及に向けて,暗号という単語も見受けることが多くなった.ブロックチェーンなどの普及で,中央集権から分散へとシステム構成が変貌し,現実世界と仮想世界が融合する中で,公開鍵暗号の秘密鍵は,生命・財産そのものになり,

 「秘密鍵こそ命,我が命」

になってきたが,そういう社会的認識は広がっていない.公開鍵暗号の発明は,火薬の発明に匹敵すると書かれている技術史書もあるが,火薬,宇宙,細胞のように,物理的実在感を伴わないので一般の人には認識され難い.また,ブロックチェーンなどではRSA暗号に代わってだ円曲線暗号が利用されている.これはRSA暗号より理解され難いが安全性,効率性の面では優れている.


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