解説 ビームスキャン形FMCWライダのワンチップ化

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 解説 

ビームスキャン形FMCWライダのワンチップ化

Beam-scanning-type One-chip FMCW LiDAR

馬場俊彦

馬場俊彦 正員:シニア会員 横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門

Toshihiko BABA, Senior Member (Graduate School of Engineering, Yokohama National University, Yokohama-shi, 240-8501 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.2 pp.136-142 2023年2月

©電子情報通信学会2023

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 三次元イメージを取得するライダは.自動運転をはじめ様々な応用の重要なセンサとして期待され,世界的に開発が進んでいる.ビームスキャン形FMCWライダは,検知できる距離が長い,物体の形状だけでなく動きまでも検出できる,環境の雑音光に影響されず安定した動作が得られる,といった特長がある.他のライダと比べて複雑な構成や精密な調整が必要になるが,シリコンフォトニクスによる光集積技術を用いれば,これをワンチップ化することができ,開発が特に活発化している.本稿はこのような背景と開発の現状,並びに筆者による実例を紹介する.

キーワード:ライダ,シリコンフォトニクス,FMCW,スローライト

1.は じ め に

 ライダ(LiDAR: Light Detection and Ranging)は,レーザ光を照射して周囲を測距し,三次元イメージを取得するセンサである.近年,自動運転技術が世界的な話題であるが,ライダはこれに使われる主要センサとしての期待が大きく,多くの企業が活発に研究開発している.

 そのような中で,シリコン(Si)フォトニクス光集積技術により,ライダをワンチップ化する試みがある.超小形ライダと言えば,既に携帯端末などに搭載されているフラッシュ形がある.しかし,これは原理的に,距離10m以上への対応が難しい.一方,中距離や遠距離に適したビームスキャン形では機械式ビームスキャナが使われ,これがライダのサイズや重量,動作速度,安定性などに様々な制約を生んでいる.もし,これが機械部品を用いない形でワンチップ化できれば,画期的なセンサとなると考えられる.

 本稿ではまず,ライダの方式とワンチップ化ライダの幾つかの試みを概説する.更に,筆者らが開発してきたスローライトを用いたライダについて詳しく述べる.

2.ライダの方式とSiフォトニクス

 ライダは,レーザ光の照明方式と測距方式により分類分けされ,照明方式には左記のように,フラッシュ形とビームスキャン形がある.フラッシュ形はレーザ光を最初に拡散させて周囲を一気に照明するので,ビームスキャナが必要ない.しかし光を拡散させる分だけ光パワー密度は桁違いに下がり,反射戻り光は更に低下するので,遠方の物体検出が難しい.一方,ビームスキャン形は鋭いレーザビームを物体に照射するので,パワー密度が高く,100m級の距離でも検出できる.ただし機械式ビームスキャナが,その発展の制約となる.

 測距方式として多くのライダに使われるのは,光信号の往復時間を計測するTOF(Time of Flight)である.ここでは,高強度の光パルスと高感度の光検出器が使われるが,直接検波のため,太陽光などの環境雑音に弱い.ライダを搭載した自動車が密集する状況では,ライダ間の相互干渉も懸念される.これに対して,周波数変調した光を往復させてローカル光と合波し,ビート周波数を計測するFMCW(Frequency-Modulated Continuous-Wave)が注目されている.これはTOFより構成が複雑ではあるが,ヘテロダイン検波なので高感度で,他の光との干渉も少ない.ドップラー計測による物体の動きも把握できる.

 図1はFMCWライダに期待される様々な応用をまとめている.距離のイメージ化では,自動運転だけでなく,近距離から100m級の遠距離まで,様々な応用が検討されている.また速度や振動が取得できるようになれば,従来の高価なスキャンドップラー計測器の機能を手軽に扱えるようになり,距離イメージと組み合わせた四次元から五次元のイメージ化も可能になる.


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